やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術

チーム医療!患者さんが信頼を寄せるクリニックづくり ~やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術~【第8回】 こんな時どうする?!患者さんの対応を考えよう!――退職した歯科衛生士さんのことばかり繰り返し話す患者さん

坪野慶明 医療法人社団 桜実会 おおど歯科クリニック 理事長

水木さとみ (Mizuki Satomi)

オフィシャルホームページ
http://www.mizuki-satomi.jp/
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患者さんは、40歳代の女性で主婦業をしています。
長年、メインテナンスに通院されていた患者さんです。
ある日、担当している歯科衛生士が退職することになり、同僚の歯科衛生士さんに引き継ぐことになりました。

前任DHの退職後、新担当DHに代わってからも、患者さんは予約日にはキャンセルすることなく、継続的に来院されています。
しかし、その度に「退職した○○さんは、こんなふうにやってくれましたよ」「○○さんは、こんなことを言ってくれました」と、前任の担当歯科衛生士のことばかりを繰り返し話します。

幾度も繰り返す患者さんの言動から、新担当DHは患者さんから信頼されていないのではないかと感じるようになり、患者さんと接することさえ憂うつになり、次第に自信も意欲もなくしていきました。

これは、ある歯科衛生士さんのエピソードです。
仕事をしていく上で、患者さんとのより良い関係を築いていくことは、とても重要なテーマでもあります。

せっかく頑張って習得した専門知識や技術を患者さんに発揮していきたくても、患者さんとの信頼関係なくしては成功に導けません。

今回は、担当が移ることで、難しいと感じる患者さんへの対応を考えることにしましょう。

【患者さんの行動から読み取れること】

この状況から打破するには、どうしたら良いものでしょうか?

さて、ここで気づいて頂きたいのは、ケースの患者さんは、前任DHの退職後、新担当DHに代わってからも何度も来院しているという行動の事実です。

「患者さんが継続的に来院する」ということは、患者さんに“動機”がなくしては成り立ちません。

つまり、患者さんは、決して不満や不快感をもっているのではないことがわかります。
新担当DHにマイナスイメージを抱いているのではないことが理解できます。

もし仮に、患者さんが新担当DHに不満をもっているのであれば、何らかのクレームが出る、あるいはドロップアウトするといった行動をとるでしょう。
しかし、患者さんは予約日にはキャンセルをすることなく、必ず来院しているのです。

では、患者さんはなぜ、前任DHのことばかり話すのでしょうか?
それは、前任DHのしてきたことが、患者さんには心地よく記憶され、「退職した○○さんは、こんなふうにやってくれましたよ」「○○さんは、こんなことを言ってくれました」という患者さんの言葉の中には、再度、新担当DHにもそのようにしてほしいとの「期待」があるからです。
患者さんが安心でき、信頼となる鍵が、患者さんの話の中に隠されているのです。

ケースの患者さんへの対応・・・もう、おわかりですね?!
新担当DHにとって、この出来事は、ピンチではなく、むしろ、チャンスが訪れたということになります。

患者さんとの信頼関係を築くにあたって、前任DHが患者さんにしてきた様々な工夫や方法、その詳細な情報を得ることが賢明です。

患者さんの「期待」を理解し、それに応えてあげることで、新たな信頼が生まれるでしょう。

【思い込みを捨てる】

人との関係の中で様々な心理がはたらきます。
時には誤解や思い込みが生じることも少なくありません。
そうした誤解や思い込みが、患者さんとの心理的距離を遠ざけてしまいます。

人の感じ方や認識は、必ずしも正しいとは限らない、そのことを頭の隅に置きましょう。

下記は「だまし絵」です。
なにが見えますか?

よく見ると・・・?!
「TEETH」という文字が見えてきます。

グレーの部分を注視していると、文字は見えなくなってしまいます。
一方だけを見ることで、他方は見えなくなってしまうのです。

患者さんへの認識も同様です。
患者さんを「この人はこういう人だ」と決めつけることで、可能性が見えなくなってしまいます。
「この患者さんは、こう思っているに違いない」と思い込むことで、患者さんの良さを見失います。

広い目で、あらゆる方向性から患者さんを見ていくことが大切です。
見えないものを見ようとする力!
気づかないことに気づこうとする力!

患者さんの口腔内だけではなく、患者さんの思いや気持ちに触れ、人として患者さん全体をみようとする力を養うことが大切ですね!