歯科経営者に聴く - 鶴ヶ峰歯科 佐藤武俊理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団十善会 鶴ヶ峰歯科 佐藤 武俊 理事長

横浜市旭区鶴ヶ峰は二俣川と並んで、旭区の行政の中心地であり、横浜市の副都心を形成している街である。相模鉄道本線が東西に通り、バスのターミナルもあることから、人の流れが絶えることがなく、活気があるエリアだ。
鶴ヶ峰歯科は相模鉄道本線の鶴ヶ峰駅から徒歩2分、駅とバスターミナルを結ぶ商店街の一角に1994年に開業した歯科医院である。鶴ヶ峰歯科では「患者さんに親切であること」というコンセプトを打ち出し、保険診療に力を入れている。
今月は鶴ヶ峰歯科をはじめ、3軒の分院を展開する医療法人社団十善会の佐藤武俊理事長にお話を伺った。

医療法人社団十善会 鶴ヶ峰歯科 佐藤 武俊 理事長

プロフィール

  • 1962年 神奈川県横浜市 生まれ
  • 1984年 横浜国立大学 中退
  • 1991年 東京医科歯科大学 卒業
  • 1991年 ふじわら歯科 勤務
  • 1991年 石井歯科 勤務
  • 1994年 鶴ヶ峰歯科 開設
  • 1999年 西湘歯科クリニック 開設
  • 2002年 南部歯科クリニック 開設
  • 2003年 スターヒルズ歯科 開設

開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。

高校3年生の夏に予備校の夏期講習に行き、国公立大学の医学部、歯学部の学費が文系の学部と同じで、6年間の学費が200万円もかからないことを初めて 知ったのです。子どもながらの直感で「こんな有利な制度はそうそうあるものではない」と思いましたね。しかし、学力的に間に合わなかったことと、家庭の経済状況もありましたので、まずは理工系の大学に進学しました。その後、アルバイトした進学塾の経営者やそのお仲間の経営者を見て、起業家がいかに輝いているかを認識させられたのです。そして、自分で学費を稼げるような状況になったことから、通っていた大学を両親に黙って退学し、歯学部に再入学しました。

学生時代に思い出に残っていることはありますか。

生活費を稼ぐために、夕方からは進学塾の講師を続けました。その頃、政界を目指していた徳洲会の徳田虎雄さんが書いた『いのちだけは平等だ』を読み、私も 病院や進学塾チェーンのようなことが歯科医院でもできないだろうかと考えていました。また、大きな収入があれば、それを資金にして、より活躍できる世界が あるのではないかとも思っていましたね。学生のときに知り合った経営者たちは現在はキャピタリストや国務大臣となっていますよ。

卒業後、勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

分院展開を積極的に考えている経営者のもとで働くこと、早く分院長を経験できるところを希望しました。自分が将来、開業したい場所に似ている医院が将来へ のシミュレーションのために役立つと考えていたのです。そこで、知人の紹介もあり、神奈川県横須賀市のふじわら歯科に就職しました。
入職後、数カ月で分院長になりました。技術や接遇を学びながら、どのように数字ができていくのかということも勉強しました。数字をきちんと管理できれば、 保険診療でもやっていけるのです。経営の効率化を行うことで、恥ずかしくない暮らしができるのだと分かりましたね。患者さんがこれだけ来院されれば、どうなるかという平均的データはわかっているわけですから、そういった数字を常に意識し、独善に陥らないような節度ある経営を行うことが結局は正しいのだと認 識できました。

勤務先で学ばれたのはどんなことですか。

勤務先の理事長の診療姿勢から学んだのはとにかく親切なことですね。どんな世界、どんな業界の人々をも恐れひるまず、交際していくことの大切さも学びました。理事長は個性的でパワフルな方で、見た目も怖いのです(笑)。しかし「歯科医院は怖いところなのだから、歯科医師は優しくないと患者さんの治療をさせていただけない。その姿勢が患者さんに訴えかけるのだ」と言われており、私もその教えを身体で経験できました。

開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。

歯科大学を志した時点で開業を決断していました。医師になる道もありましたが、歯科医師を目指したのは早く開業したかったからですね。お金は人の役に立って初めて入るものです。ビジネスとして、どれだけのことができるのかという思いもありました。そこで、卒後1年目で分院長となり、2年を経過した時点で理事長に願い出て、開業の許しを得たのです。

開業地の第一印象はいかがでしたか。

私どもの階下に入っている珈琲館にお邪魔し、人の流れをずっと観察したのです(笑)。これで、患者さんの数が見込めそうだと実感できました。また、高速を 使えば、東京都世田谷区からも30分の近さであることも良かったですね。とにかく、この物件に惚れ込みました。競合物件はないとは言えない状況でしたが、 その後も件数は変わっていませんし、チェーン展開に向いた物件だったと思います。

設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。

内装は父親の知り合いに頼みました。動線が良く、効率よく動けるような空間になっています。チェアは最初は3台でしたが、すぐに4台になりました。分院展開を考えていましたので、この台数で良かったのですが、予想以上に多くの患者さんにいらしていただけました。

資金調達の知識はどのように得られたのですか。

銀行員の親類や友人からのアドバイスのほか、学生時代からの繋がりの経営者の方々にも教えていただいたし、支援も受けました。私は同業種、異業種に関わりなく、酒席などで積極的に交際してきましたから、先輩方から情報を獲得しやすかったのでしょうね。

開業にあたってはどんな苦労がありましたか。

やはり借金をしていることの不安や患者さんがいらっしゃるのかという心配はありました。実際、初日は4、5人の患者さんでしたしね。しかし、ラジオ日本で CMをさせていただくことになり、これで患者さんが増えました。1月に開業し、3月にCMを開始したら、4月のレセプトは200枚を超えたのです。人の助 けを感じました。

開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。

当たり前のことですが、自分が来たいなと思える歯科医院であることです。患者さんに親切であること、医療機関に独特の「上から目線」をせずに患者さんを大 切にすることを心がけました。「患者様」と呼びつつ、心が入っていない接遇ではいけません。その意味で、エステティックサロンと歯科医院は来院された方の 身体に触れるという共通点があり、エステティックサロンの温かく、かつ洗練された接遇は参考になりますね。

経営理念

経営理念をお聞かせください。

誰もが大きな経済的負担を感じることなく、通院できる歯科医院です。多くの患者さんに選んでいただければ、保険中心でもやっていけるのです。銀座のお寿司 屋さんか、回転寿司のチェーン店かということですね(笑)。自費診療への勧誘は歯科医師にも患者さんにも心理的負担となります。多くの患者さんに選んでい ただくには、患者さんをとにかく親切に、かつ大切に扱ってさしあげることが大切ですね。

診療方針

診療方針をお聞かせください。

「患者さんに親切にする」というのはほかの業界でも通用するレベルなのかという基準を常に考えています。自分のいる業界内での基準では駄目ですね。そもそ も医療機関の接遇レベルはほかの業界ではあり得ないほどの「上から目線」です。そして、患者さんに日頃から親切にすれば、患者さんにとって良い、経営的に も良い、レントゲンの撮り直しなどの小さな失敗をしても患者さんが許してくれることに繋がります。このうち「患者さんが許してくれる」というのが重要です ね。結果的に、勤務医である自分自身をトラブルなどから守ることになります。

患者さんの層はいかがですか。

地元で生活されている方がほとんどです。開業したときからの患者さんとは一緒に年を重ねてきましたので、高齢の患者さんが増えてきましたね。逆に、子どもさん連れのニューファミリー層は少ないです。子どもの患者さんは分院の方が多いです。

増患対策

どのような増患対策をしていらっしゃいますか。

再初診として、将来、再び私どもを選んでいただけるように考えたうえで、治療を終了することです。半年、あるいは2、3年後に「また、あの歯科医院に行き たいな」と思っていただけるような歯科医院であることを目指しています。患者さんの話をよく聞くのはもちろんですが、聞けばいいというのは違います。まず 「ご安心ください」と言うと、患者さんの気持ちは落ち着くのです。患者さんに「説明が多いのか、少ないのか、どちらがいいのか」と問いかけたら「多い方が いい」と答える患者さんばかりでしょうが、本音は「良くしてもらえれば、説明の量は関係ない」でしょう。10年も通ってきてくださっている患者さんであれ ば、長々と説明するよりも「大丈夫です」の一言の方が価値のあるものですよ。したがって、私どもでは分院を含めて、リコールをしたことはありません。

スタッフ教育

スタッフの採用について、お聞かせください。

私どもでは見学や面接の前に電話をくださった時点で、第一印象の良くない話し方をする歯科医師はお断りしています。もちろん、接遇やコミュニケーションの 取り方が上手な人には天性の素質があるのは確かですが、入職後は「失敗しても許してもらえるような人間関係を作ってほしい」ということのみをシンプルに伝 えています。歯科医師が小さなミスをしたとしたら、日頃、自分を大切にしてくれていないと思っている患者さんなら腹を立てるのは当然です。患者さんを常に 大切にすることが自分を守ることに繋がるのです。ほかの歯科医院と同等の親切ではいけません。たとえば歯科医師が「次の人、ご案内して」と言うよりも、 「○さんをご案内してさしあげてください」と言えば、患者さんは自分が大切にされている実感を得ます。僅かなことですが、ほかの業界では当たり前のことな のですから、そういう歯科医師であってほしいです。

歯科衛生士、歯科助手への教育はどのようになさっていますか。

形式ばったミーティングはあえて行っておらず、食事しながら話す程度ですが、私の理念や方針は浸透しています。歯科衛生士は8人いますが、そのうち5人は 20年以上のキャリアがあります。私どもへの在職年数も10年から15年は当たり前で、有能な人ばかりなのです。ですから、私が何も言わなくても仕事がで きますし、私の背中をよく見てくれていますね。そして、新しいスタッフに良い教育を行ってくれています。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

今後の分院展開としては現在の4歯科医院が点ではなく、線として繋がるような展開を検討しています。西湘歯科クリニックは中郡二宮町にありますから少し遠 いのですが、町田市の南部歯科クリニックと横浜市青葉区のスターヒルズ歯科は車で10分ぐらいの距離なのです。現在はこの2分院の間ではスタッフが行き来 し、情報交換を行っています。やはり2軒ありますと、スタッフの病欠のときなどに融通が効きますね。したがって、西湘歯科クリニックまでの東海道本線沿線 に分院があれば、より効率的になるはずです。
訪問診療は考えていません。訪問診療やインプラントなどに特化した歯科医院、私どものようにお金の心配をせずにコンビニ感覚で受診できる歯科医院、それぞれあっていいと思います。

開業に向けてのアドバイス

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

年上の人はどうしようもないことを言うこともありますが、どんな人でも十のうち一つぐらいはいいことを言うものです(笑)。面倒な上の人々とでも酒席などで積極的に関わり、将来の自分に役立てましょう。多くの人と関わっておくと、結果的にプラスになりますよ。

プライベート

プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。

異業種や歯科業界とは違う世界の方々との交流です。お酒が好きなのですよ(笑)。また、バレエなどの芸術鑑賞も趣味の一つです。ロシアでバレリーナをして いる日本人の知り合いがいることから鑑賞するようになりました。最近はキエフバレエの「ドン・キホーテ」を観ました。バレエは繊細な芸術ですし、観たあと で優雅な気持ちになれるのがいいですね。鑑賞後にすてきな食事に行ったなら、その一日の充実感が2倍にも3倍にもなった気がします。

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