歯科経営者に聴く(前編)

~第一線で活躍する理事長から学ぶ~

 神奈川県藤沢市は湘南地域の中心都市であり、観光地としても、多くの大学がキャンパスを構える文教都市としても魅力のある街である。
湘南食サポート歯科はその藤沢市で「食べること」の喜びと楽しさを感じてもらおうと在宅歯科医療に力を入れている歯科医院である。

 今月と来月の2回にわたり、湘南食サポート歯科の三幣利克理事長にお話を伺った。

医療法人社団 若葉会 湘南食サポート歯科 三幣 利克 理事長

三幣 利克 理事長

【プロフィール】

  • 1974年東京都 生まれ
  • 1999年東京歯科大学 卒業
  • 2007年コンパスデンタルクリニック赤羽 開設
  • 2009年医療法人社団コンパス理事長 就任
  • 2016年湘南食サポート歯科 入職
  • 2017年医療法人社団若葉会 理事長に就任

【学会 他】

  • 日本老年歯科医学会
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
  • 日本静脈経腸栄養学会
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開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。

歯科技工士で自営業を営んでいた父の背中を見て育ちました。そのような環境でしたから、歯科医療にかかわる人たちとの触れ合いを通して、この業界を自然に知っていったように思います。幼稚園の頃には既に「将来の夢は歯医者さん」と文集に書いていましたし、中学一年生のときには歯科医師になるつもりでいました。

学生時代に思い出に残っていることはありますか。

遊びも勉強も一所懸命に取り組んでいましたが、特に思い出に残っているのは水泳部での活動です。当時、東京歯科大学の水泳部はオールデンタルで6連覇を達成していて、キングと称される強豪チームでした。水泳は基本的には個人競技ですが、オールデンタルはポイント制での学校対抗なので、団体競技として取り組まないといけません。個人がどう活躍するかで団体の成績が左右されるという体験は今も役に立っています。上下関係の厳しい体育会の中でチームにおける個人の役割を学んだほか、キャプテンにも指名されたことで組織力とかチーム力という意識を持つ機会に恵まれた経験が良かったかなと思っています。

勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

自立生活しながら学びを得たいと思い、アメリカで補綴を学んで帰国された天野聖志先生の教えを求めて天野歯科医院に入職しました。こちらで3年間、自費診療を含めた歯科治療の基礎を学びました。

それから転職されたのですね。

天野歯科医院で歯内療法を担当されていた石井宏先生の教えを求めて石井宏診療所に移り、補綴の前段階としての保存処置の大切さや学び方の基本を改めて教えていただきました。そして、埼玉県川越市の医療法人健友会に転職し、在宅歯科医療や口腔ケアに出会ったのです。

健友会は在宅歯科医療のパイオニア的存在で、ここで見た訪問診療は非常に心に響くもので、在宅医療における歯科の役割に気付けたと同時に、歯科医師としての使命感を覚えました。健友会には学生時代の歯科助手のアルバイトからつい先週まで、25年間お世話になりました。大学2年生のころから毎週日曜日に勤務していたのですが、最後の出勤日にはスタッフの皆さんからお花やワインをいただき、感慨深いものがありました。

ビジネススクールにも通われていたのですね。

日本大学のビジネススクールで勉強していました。歯科の世界は狭いので、独立して開業する前に別の角度からの知識を得ようと思い、学びの場を求めたのです。社会人大学生として、社会ニーズに基づくビジネスモデルを研究したのですが、そのときの「要介護高齢者にとって最適な歯科医院を一から構築する」というコンセプトのビジネスプランがとあるビジネスコンテストで優秀賞を獲得し、コンパスデンタルクリニックの開業に繋がりました。

コンパスデンタルクリニックの開業から湘南食サポート歯科を開業するまでのお話をお聞かせください。

コンパスデンタルクリニックは私が33歳の時に、健友会で経験してきた在宅歯科医療の場を広げようと東京都北区赤羽で開業した歯科医院です。8年間で、横浜、立川、三鷹、名古屋、大阪、藤沢湘南台、大宮にクリニックを展開する中で、歯科治療そのものは目的ではなく手段であり、食べることを目的とした歯科医療の在り方について、ある程度表現できた30歳代だったのかなと思っています。現在のコンパスデンタルクリニックは医科歯科共同のクリニックを目指すために、医師の先生に引き継いでいただきました。

その時期を経て、世の中的に「歯科医療の目的は食べることの支援」という認識と理解が広がっていっている中、「行き先(食支援)」はわかるけれども「行き方(やりかた)」がわからない。そのような歯科医療機関が同時多発に発生するのではないかと考えるようになりました。40歳代の10年間はそのような歯科医療機関にとっての良き支援者でありたいと考えるようになりました。

湘南食サポート歯科も2016年に前任の先生が開業された歯科医院で、私はご縁に導かれてあとから「行き方(やりかた)」支援者の心づもりで支援させていただきました。その後、前任の先生は諸事情によりこの場を離れられることとなり結果的に私が院長を引き継ぐこととなりましたが、歯科医療機関にとっての「行き方(やりかた)」支援者でありたいという気持ちに変わりはありません。

こちらの場所の第一印象をお聞かせください。

気候は温暖で食事も美味しくて、暮らす人々が上品で元気!(笑)。ただ、コンパスデンタルクリニックは湘南台にも分院展開していましたので、いくらかの土地勘はありました。このあたりの在宅医療文化の時間軸は都心部から少し遅れており、私にとっては過去の取り組みがちょうど今湘南の地で活かせるのではないかと感じています。上品でインテリジェンスの高い方が多いので、在宅歯科医療サービスを正しく受け取ってくださいます。地域の需要と私たちのできる供給の交換が気持ちよく行われるので、仕事をしやすい環境だと思っています。

継承にあたってはどんな苦労がありましたか。

入職して1年後に院長となりましたが、医院経営は債務超過の状態で、取引銀行からは「2期連続で赤字なら倒産」、具体的な額は言えませんが「赤字累計で規定額を下回ったら即倒産」というコベナンツ(制限条項)が出される中、経営改善に苦労しました。銀行はギリギリのところをついてくるし、凄いですよ(笑)。どう乗り越えたのか覚えていないぐらい一所懸命に働きました。

継承にあたってのコンセプトなどをお聞かせください。

組織や職場というものは「地域の要求」「患者の要求」「働く職員の要求」などなど…多くの要因により生命体のごとく育まれるものだと考えています。私自身、半分はプレーヤーとしての歯科医師、半分はスタッフの応援団長みたいなスタンスで管理者をしていますので、これから食サポート歯科がどのような歯科医療機関として育まれていくのか楽しみながら仕事している感じです。

設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。

スタッフの増員に合わせて院内レイアウトはちょこちょこ変わっています(笑)。これからもスタッフ主導でどんどん変えちゃってもらいたいと思っていますが、もう間もなくしたらそれも限界かなと。今後は医院拡大や分院展開もあり得るのかなとも思っています。

続きは、6/1公開の後編で!