歯科経営者に聴く - よこい歯科クリニック 横井友一 院長(後編)

歯科経営者に聴く(後編)

~第一線で活躍する理事長から学ぶ~

横井 友一 院長

よこい歯科クリニック 横井 友一 院長

【プロフィール】

  • 1980年愛知県 生まれ
  • 2004年愛知学院大学歯学部歯学科 卒業
  • 2004年アサノ歯科 勤務
  • 2005年今枝歯科医院 勤務
  • 2010年よこい歯科クリニック 開業

【学会】

  • 2012年~ 蟹江北中学校、蟹江小学校、須西小学校学校歯科医
  • 2007年~2012年 愛知学院大学ポストグラディエートコース役員
  • 勤務医時代JIADsペリオコース、保田好隆開業医のための矯正コース、3iインプラントセミナーなど多数セミナー受講ファイナンシャルプランナー2級
     
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理念・治療スタイル

経営理念を教えて下さい。

専門医の先生を雇っているわけではなく、私ができる事と代診の先生で出来る範囲の治療を提供する。
いろんな職種の人、保育士さんだったり衛生士さん・技工士さんだったり、チームワークで1つの医院として成り立つことを基本としています。

経営としては、これ以上増築や分院展開は考えていません。ドクター3人とか4人体制で安定させたいと思っています。

ドクターの体制としては、ある程度の診療を行える先生がもう一人ぐらい、経験の浅い先生があと一人くらい来てくれるのが理想です。
当院で働くことで勉強になり、働いてよかったなと先生や衛生士さんが思ってくれる歯科医院を目指しています。
現在働いているスタッフにも当院にきて良かったなと思ってもらいたいです。

スタッフが幸せで満足してもらえる経営・運営ということでしょうか?

その幸せが患者さんにも伝わりますし、スタッフも患者さんも満足することで売り上げにも繋がる。そうして皆がwin-winな関係を築いていくのが当院の経営理念です。
もしそれが上手くいかなくなったときは、長くは続かないだろうなと思っています。

こちらの医院には技工士さんがいらっしゃいますね?

技工士さんが常駐していて院内技工が出来るようになっています。そしてCAD/CAMとかセラミック系は院内で作れるようにしてあります。

保育士さんも常駐していますのでお子様の託児が可能です。衛生士さんはメンテナンスをやったりとか、みんながそれぞれの場所で協力しあって働いています。
保育士さんに関しては女性の先生やスタッフが復帰しやすいような環境を作るという意味でも雇用を続けています。

保育士さんがいるとスタッフさんと患者さんのお子様を安心して預けれますね?

今年の4月から保育士さんを雇いはじめて、患者さんの託児を開始しました。
増築の際にはスタッフの託児も考えて着手しています。

技工士さんは他院の技工物も手掛けているのですか?

他院のものは手掛けていません。院内ではセレックやCAD/CAM冠とかジルコニアの機械で削り出すタイプの技工物をメインに作っています。他の部分に関しては外注です。

技工所を作るきっかけを教えてください。

当初、技工士さんはいませんでした。セレックという機械を導入する際に技工士さんが必要になり、技工士兼歯科助手という形で雇わせて頂き、歯科助手も技工の方も手掛けてくれる人を雇用しました。現在では技工がメインで、治療はほとんど行なっていません。
そういう経過があり、増築の際に技工室も作った方が良いという流れになりました。

診療方針を教えて下さい。

こちらが提案をしたものを患者さんに決めてもらうものだと思っています。「これが良いよ」という話はしますが、患者さんのニーズは人それぞれ違います。
「早く終わりたい人」「凄く良い治療がしたい人」「お金はどれだけかけてもいい人」「お金はあまりかけたくない人」皆さんそれぞれ指標が違っていますので、なるべくその人のニーズにあった提案をしたいと思っています。

例えば、時間が取れずなかなか治療に通えない人に通院を進めても続かないですし、その人が通える範囲内で出来る治療を行うのが当院の治療理念。
その人が通院できる範囲と、払えるお金がどれぐらいなのか、それらをよく検討して治療の提案をするように心がけています。

患者様一人ひとりのニーズをしっかり聞くことを一番重要視されているのですね?

そうですね。患者さんそれぞれが満足してもらえるのが一番良いと思っています。
なるべく患者さんに寄り添い、歯科医師として出来るだけ相談にのってあげられるようにしていきたいです。

他の医院との差別化についてお聞かせください。

「自分の意見を通し過ぎない」。 基本的には患者さんが中心で進めるのが他の医院との違いだと思っています。
「インプラント」「歯を綺麗にしたい」「矯正したい」それらのニーズに自分が請け負える範囲をなるべくひろくしていくのは、ドクターを始めとする当院の努力だと思います。

開業・運営するうえでの苦労話、ピンチなどはありますか?

資金の面では、ものすごく恵まれている方だと思っています。
患者さんも当初から通院して頂いていますし、このやり方を続けていけば引き続き来てくれるのと思っています。

一番の悩みはスタッフが辞めた時にすぐに良い人が来てくれないということです…。大学に残っていたわけではありませんし、卒業後すぐに勤務医として働いて院長となりましたので、人脈等の繋がりが少ないという面で人材の確保に悩んでいます。
名古屋市内ではありませんし、蟹江町が中心部から遠いイメージがあり、人材の確保には苦労をしています。

私が望む人材は人の言う事を聞ける人で、相手の事をなるべく考えてくれる人を求めているので、それに合う人を見つけるのが一番難しい。と言うのが今の実感ですね。
なかなか電話もかかってきませんし、見学も来てくれません。「どうやって良いスタッフを見つけていこうかな」というのが一番の悩みです。

増患対策

患者様からはどのような問い合わせが多いですか?

基本的には治療の予約とかお問い合せが多いです。お子様の矯正の相談もよくあります。
インプラントなどの問合せは長年通っている人じゃないとなかなかありませんが、「評判が良いからみてほしい」って言ってくれる人もいるので、そういう話を聞くとやはり嬉しいですね。
紹介で来てくれる患者さんが増えるのは素直に嬉しいです。

どのような増患対策を取られていますか。

看板や広告をたくさん出しているという事はありませんが、ホームページを見たときにはどんな医院か雰囲気がわかるようにしています。
それ以外の増患対策は特に行っていません。

一人一人の患者さんと真摯に向き合うことで自然と増患ができているというような状態でしょうか?

ありがたいことに、そんな感じで増患できています。

スタッフ教育

スタッフの育成・教育はどのように行なっていますか?

どこまで出来てどこまでやってくれるかって医院によって違うと思います。治療方針とか診療方針というのは医院によって少しずつ違いますので、一緒に働いていた先生の事を否定して欲しくはないですね。
衛生士さんにしても当院で働いていく以上、今まで「これで良いよ」って言われていた事を真っ向から否定する事はして欲しくはありません。

当院の方針としては、患者さんに寄り添う事が第一になりますが、まずは当院の治療の流れを見てもらい、そこから出来る範囲で徐々に任せていくという感じです。
教育という面では、代診の先生方の技術や知識が高くなっていますので、その先生方に任せています。

院長先生がお忙しく頑張っている姿は、スタッフさんも自分たちも頑張らないとと思いますね…。

はい…、私が一番バタバタしています(笑

患者さんの意見を尊重して、先生方がフォローしていくイメージでしょうか?

そうですね。基本的には患者さんが「良いよ」と納得しましたら、その先生のやり方で治療してもらって良いですし、患者さんから要望があれば指名制・担当制で対応しますが、通常は誰が治療するとは決めていないんです。
患者さんに「同じ先生にずっと診てほしい」と言われたらその先生がメインで治療していきますが、先生によっては週1回とか2回の勤務になりますので、患者さんとの都合がつかない場合など、誰でも診療の続きが出来るようにしたいと思っています。

スタッフが働きやすい環境づくりの為に注意されていることはありますか?

働きやすい環境というのは、若干スタッフの数を多めにして、いざという時に休める環境が一番良いと思っていて、同じ職種のスタッフを一人ずつ余らせたいと思っています。
いざ、病気にかかった時に「ちょっと今日代わりに出れる?」とか、逆に「残った人で頑張ろうね」って感じでいけるような体制作りを…。

例えばドクターが一人多ければ予防の仕事ができたり、逆に衛生士さんが余っていたらアシストに入ってもらったりとか…。 それぞれのスタッフが出来る事をなるべく増やしてもらって、本当に休まないといけない時に休める環境作りを心がけています。

受付も当初は一人でやっていたんですが、今はできる限り二人で対応したり、待合室がなるべく密にならないように、早く帰す事ができるようにしたりだとか、そんな感じで気がけています。

ギリギリの人員ではなくて少し余裕を持たして、融通がききやすい環境整備を心がけているのですね?

そうですね。 有休とかも取りやすく休みたい時に休めるような環境だったり、一人が突然休みになってもなんとかやれるような環境をできれば作りたいと思っています。

今後の展開

今後の経営の展開について伺わせてください。

当院には、今までCTと顕微鏡はありませんでした。 現在申請中の助成金が通ったらCTとか顕微鏡を入れて、患者さんにもっとわかりやすく説明できる体制を作りたいって思っています。
機械に関しては大体のものが揃っています。ですから、CTと顕微鏡はぜひ追加したいと思っています。

顕微鏡はマイクロですか?

ネクストビジョンという次世代型マイクロを導入予定です。

今のCTはデジタルレントゲンか何かですか?

今はデジタルパノラマとデンタルしかありません。
CTを撮らなければいけない時は、昔勤務していた歯科医院に頼んで撮影してもらっているんですけが、今後1年ぐらいで導入したいと思っています。

開業へのアドバイス

転職・開業を考えておられる先生方へアドバイスをお願いします。

開業をする前にはやってみないとわからないところが結構あります。今、すごく患者さんが来ている歯科医院でも当初から患者さんが来ているわけではなく、徐々に増えていったはずです。決して「こうやってやったら患者さんが一気に絶対くるよ」と言う感じではないと思います。

経営に関して、患者さんが何人ぐらい来たらこれぐらいお金が入るとか、そういう事が全く分からず手探りで開業される先生が大半だと思います。
人件費がこれぐらいかかっているとか、機械とか材料とかにいくらぐらい、電気代にいくらぐらいかかるとか、そういうことは最初は分かりません。 土地の値段がこれぐらいなのは打倒なのか?とか、銀行とかの付き合いかたとか、一番勉強しづらいとこだ思うんです。こんな助成金があるとか、こういうのも助成金として使えるよとか、そういうことも最初は全然知らないと思います。
でもそれを知っているのと知らないのでは、運営面で大きな違いになってきます。

勤務医を雇える歯科医院というのは、流行っている医院になりますので、そういう歯科医院を参考に開業される先生が大半ではないでしょうか。
でも、本当に最初から経営が波に乗るという事はあまりないと思います、どうやったら患者さんが増えてきてどうやったら苦しくなって、そういう時はどういうアプローチが必要なんだよってことを知っておくのは開業するにあたって重要です。

自分で全てが出来るかと言えば決してそうではありません。スタッフの協力が得られる一体型じゃないと無理だと思います。自分一人で出来る事って凄く少ないんです。なのでスタッフに満足して働いてもらうことが必要で、スタッフがすぐに辞めてしまい、また採用・教育から始めるような状態ではなく、上手く引き継げるような環境を構築することが必要ですね。

流行っている医院、流行っていない医院をいろいろ経験したほうが良いですか?

流行っていない歯科医院で働くのは難しいと思うので、厳しい事を言ってくれたり、開業の相談が出来る先生が良いのではないでしょうか。良い事ばかり言ってくれる先生の、「やったらいいじゃん」という言葉だけではなく、「じゃあこういう場合だったらどうするか?」ということを勤務医時代のうちに考えるクセを付けたほうが良いですね。

例えば、歩合制で治療をしていると、自分の点数がこれぐらいだったらこれぐらい稼げるんだな。と考えるかもしれませんが、そういう事も先生に聞いて詳しく教えてもらったり、スタッフとかこういう風じゃないとついてこないのかなと考えるクセをつけることも大事ですね。

開業セミナーを受講して、これくらい資金をかけたら良いよっていうのは教えてくれますが、例えばこの規模の医院で患者さんが10人だったらどれぐらい赤字とか、患者さんが30人~40人だったらどれぐらい黒字と言うのは、なかなかシュミレーションしづらく、どのくらい資金が残るか全然わからないうちにみんな開業していくと思います。最低でもこれくらいの患者さんが来ないと潰れる、勤務医の時より給料が減る、そういう事も知らずに開業してしまう…。
開業というのは成功したら良いものですが、大変な所もたくさんあります。仕事量としては勤務医の時よりは確実に増えます。勤務医として働いているうちに、自分が院長になった時にこういう事が必要だと思いながら働いていく事が大事だと思います。
例えば、スタッフ同士が喧嘩して上手くいっていない時に、ドクターはどちらかに同調するのではなく、どうやって上手くまとめてあげよう? と言うように自分が院長の立場ならどうしようという感じで考える。と言う事が大事です。

通常の細々としたことに対して自分ならどうするかを考えておくことが必要ですね?

やはり自分中心になってしまうといけないと思っています。「相手の意見を聞く」「人が何を考えているかを考える」っていう能力を身に付けましょうという話はしています。

プライベートの過ごし方、趣味等

院長の趣味、余暇の過ごし方

意外と忙しいんです。県の歯科医師会の仕事などで結構忙しくしています。子供も3人いますので、子供の相手をしたり家族でどこかに行ったり、県の歯科医師会の仕事で潰れちゃうかな…。

何されている時が一番安らぎますか?

美味しい物を食べている時ですかね。暇な時間があまりないので美味しいものを食べたりする事ぐらいしかないですね。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

勤務医時代との違いは、休みの日の過ごし方ががだいぶ違っています。子供が3人いて、遊んだり出掛けたりしたり、プラス雑務とか求人関係等を税理士さんや銀行さんや業者さんと話したりします。そういう仕事はなかなか、勤務医では経験しない事だと思うんでが、それらを行う時間が診療時間以外に増えるので、休みの日の自由時間が減る感じです。

勤務医時代の時間割+αで、夜にそのような作業が入ってくるのでしょうか?

夜とか休みにそういう仕事が入ってきますね。勤務医の時は勉強しようと思って、インプラントや矯正の勉強をしたり、通信で開業のためにファイナンシャルプランナーの資格を取ったりとかの余裕もあったんですけど、今はそういった余裕がなくて、どちらかと言うと求人や税理士さんとの話とか、そういう仕事の方が増えています。

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