歯科経営者に聴く - さくま歯科医院 佐久間栄院長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 さくま歯科医院 佐久間 栄 院長

医療法人社団さくま歯科医院は、都営大江戸線光が丘駅から大きな集合住宅が点在する光が丘団地のエリアを出て、すぐにある。院内は清掃が行き届き、夜間にオゾンガスで殺菌されたクリーンな空間。カラフルな診察ユニットも明るい雰囲気だ。
佐久間栄院長は患者さんの満足を第一に考えた診療を実践する一方、ISO9001やIDI認証を取得したり新しい歯科医療を積極的に取り入れたりすることでスタッフのモチベーションを高め、医院をやりがいある職場としてデザインしている。活力あるこの歯科医院の鍵はなんなのか、お話を伺った。

医療法人社団 さくま歯科医院 佐久間栄 院長

医療法人社団 さくま歯科医院 佐久間 栄 院長

プロフィール

  • 1966年東京都練馬区に生まれる。
  • 1991年明海大学歯学部卒業、1995年同大学院修了。
  • 大学院修了後は明海大学医局勤務。2000年さくま歯科医院開業、現在に至る。
  • 2003年ISO9001取得、2005年IDI(歯科医療情報推進機構)認証取得。

【学会 他】

  • 歯学博士(歯科補綴学専攻)
  • 日本歯科補綴学会会員
  • 日本口腔インプラント学会会員
  • 日本口腔健康医学会(日本顎咬合学会)認定医
  • ドライマウス研究会認定医
  • ITIインプラント認定医
  • Center of implant Dentistry Japan Member
  • 日本臨床歯周病学会(JACP)会員
  • GO会会員
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開業まで

医療法人社団 さくま歯科医院佐久間院長は学生時代にはサッカーに熱中され、大学は歯学部を専攻する。大学院卒業後は大学の医局に勤務される。
「臨床研修で講座の先生がやっている医院へ行ったのですが、そこで補綴ができなければだめだと実感しました。それが歯科医の入り口としても、その後の勉強のためにもよかったと思っています。その先生の講座に残って、クラウンブリッジを研究しました。大学院に進んだ時点では、10年ぐらい研究をしてもいいという気持ちでしたね。」

「しかし同期が開業し始め、自分も開業のタイミングを考えて、開業医で雇われ院長のような形で勤務医をしました。ここで学んだのは、大学という後ろ盾のある大学病院と違って、開業医はふんぞり返って患者さんを待っていても来てはくれないのだということでした。しかし雇われ院長の立場では自分のやりたい診療ができない。経営的に保険でこれはやってはいけないとか、使いたい材料や技工士も思うようにならないとか、不自由でしたね。しだいに開業して自分の理想とする医療を実践したいと考えるようになりました。」

母の実家である現在の場所で開業したのが2000年。ドクター3人、常勤スタッフ5人、アルバイトスタッフ2人で始めた。

「ここに開業してもうまくいかないじゃないかと言う人もいましたが、初日から20人の患者さんがあり、蓋を開ければ不安は消えていました。当初から診療時間を長くとっているので、仕事から光ヶ丘団地などの家に帰ってくる人が利用できるという利点があったのでしょうか。団地の方たちは、新しい診療所ができると『一度行ってみようか』という心理が働くのかもしれません。それから順調に患者さんが増えていき、現在は月平均3000人。毎日100人を切る日はまずありません。多い日で、160人ぐらいです。」

患者さん中心の医療サービス

医療法人社団 さくま歯科医院さくま歯科医院は患者さんの満足度を追求することを大切にしており、どのような対応をしているのか。
「私の方針は、医療はサービス業だと考えて、患者さんが満足するかどうかということを中心にすえていくことです。優秀なドクターが優秀な技術で治療するのはもちろん必要なことですが、いくら技術が優秀であっても患者さんが満足しなければよいサービスとはいえません。医師としてこれがベストだと思われる治療があったとしても、今は押しつけの医療など通用しませんね。患者さんに説明する責任を果たし、医師は患者さんが望む医療の選択をすべきです。」

「患者さんが『これはいやだな』と思うことがあってはいけないと考えています。例えばスリッパやコップなど、前の人が使ったものを使うのはいやですね。だからスリッパは殺菌していますし、コップは患者さんがチェアに座られてから新しいものを出す、使い捨ての器具は目の前でパッケージを破いて出すということを、スタッフが統一して行っています。清潔感は重要ですね」

「オゾンやアロマテラピーなど目に見えないところでも、患者さんを迎えいれるための準備をやっています。院内には、殺菌や脱臭に効果があり、かつ環境にもやさしいオゾンガスとオゾン水を取り入れている。オゾンはミュータンス菌を抑える効果もあり、うがい水をオゾン水にすることで患者とスタッフの感染防止にもなっている。オゾンガスは、診療の終わった夜間に天井から放出。空気はもとより器具類もすべて殺菌している。待合室には、マイナスイオンアロマディフューザーがあり、緊張しがちな患者さんの不安を取り除く効果を発している。もちろん、最も重要な治療の部分でも『ここまでやっているの?』と思われるレベルでやっていると自負しています。」

「一般的な歯科医院の患者さんを対象に取ったアンケートで、歯科への不満の上位3つが、待たされる 痛い 予約が取れない ということだそうです。お待たせすることに対しては、事前の準備を万全にすることで待ち時間を少なくし、診療を30分ごとの個人の契約だと考えて診療すること。痛みについては器具を使って軽減すること。予約については、ユニットを増やすことで対応しています。」

「技術的にはできるだけのことをしています。自費診療でしたら、補綴物は基本的に無料で作り直しています。結果として患者さんに不満が残るということは、自分の技術が足りなかったか、それとも患者さんの要望を自分が見抜けなかったからですね。無料で再製することで納得していただければ、患者さんも安心して次の治療が受けられると思います。収支のことばかりを考えるのでなく、そのような人間的な信頼関係を築くことが優先ですね。若いドクターにも、もしもお金のことがネックになってしまうのなら、価格を下げてでもやって、自分の経験を積んでいくようにと指導しています。おかげさまで患者さんの数は増え、トラブルもほとんどありません。」

「接患者マナー」

医療法人社団 さくま歯科医院さくま歯科医院は患者さんの満足度追求の一環から患者さんへの対応マナーを非常に重視なされているが、具体的にどのようにしているであろうか。
「ひとつひとつのことは、スタッフ全員が患者さんの目線で見て気づいた事を、ミーティングの席で話し合って修正しています。そうすることで、同じシチュエーションなら院から出てくる答えはひとつに統一されます。」

「医師も衛生士も助手も、技術を自分たちの責任で日々研鑽するのは当然のこと。その上で、患者さんにとって気持ちのよい『接患者マナー』を全員統一して実践することで、信頼できる医院になるのだと思います。」

「患者さんと話すのに、マスクをして話すのはよくないという意見が出て、最初と最後はマスクをはずし、きちんと挨拶して説明などもきちんとできるようにしました。待合室のアロマも、スタッフからの意見で始めました。洗面所に使い捨て歯ブラシを置くことなど、患者さんの目線で院内を見て気づいた意見が出てきます。そういったことは、なるべく取り上げてすぐに実行するようにしています。もちろん経費のかかることですが、無駄だったことはひとつもありません。それがスタッフのやる気にもつながっています。」

ISO・IDI取得によるスタッフへの動機付け

さくま歯科医院では、歯科としては珍しいISO9001取得者である。取得した2000年時点では、ISOを取っている個人医院は1%ない状態だったという。取得するに当たっては、整備しなければならないことが多くなり、また日常の医院活動の中でも必要な作業が増え、負担が多いと言う人も多いISOだが、これを取得することによってどんなメリットがあったのだろうか。

「先輩が先にISOを取っていたので、その方に話を聞いて私も取得することにしました。これを取得することで最もよかったと思うのは、スタッフひとりひとりが、自分のパートを受け持つ責任感を意識する契機となったこと。それによってみんなが参加意識を持つことができるようになりました。」

「ISOでさまざまなチェックを必要とすることで、ひとりひとりが『私はこのパートでこれをがんばる』という動機づけになる。人に言われてやるのでは、単なる流れ作業になりがちです。しかし自分自身でそのことの意味がわかって、その必要からこれをやるのだと思えば本来の仕事ができます。」

「ISOでは取得後も年2回の内部監査があるほか、外部のチェックもあります。それをクリアするには確認をしっかりすることが必要。器具の滅菌のような基本的なことをきちんとやるという、地味な作業の成果が目に見えるところに大きな意義があると考えています。歯科のISO取得者はその後ずいぶん増えていて、ガソリンスタンドやコンビニエンスストアよりも取得率が高くなっています。歯科は第三者機関に認められる機会がなかなかないので、モチベーションを保つ方法としていいと思います。」

ISOとともに、ここではIDIも取得している。IDIは歯科医療情報推進機構が認定するもので、歯科だけの専門的な認証制度だ。2007年5月時点で、全国84の歯科医院が取得している。第三者機関の公正な評価を受けることにより、患者様が求めている適正なニーズや医療サービスを的確に把握することができ、患者様のニーズに基づいた医療技術の研鑽・習得ができ、より高い質の向上につながると考えられる。

「IDIは、ISOの2年後に取得しました。IDIはISOより以上に取得が難しいです。診療内容にまで踏み込んでいて、あらゆることの文書化、カルテの書き方、インフォームドコンセント、材料の認可や期限など、かなり細かいことまですべてルール通りにやらなければなりません。」

「ISOにしてもIDIにしても、自分たちでいいと思っているだけではなく、世間で認められているという代弁者になってくれるわけです。これをうまく使いながら、スタッフのやる気につなげていければ、手間や費用よりもメリットがありますね。」

やりがい・働きがいのある労働環境整備

医療法人社団 さくま歯科医院現在のスタッフは、歯科医師は非常勤を入れて7名、歯科衛生士5名、歯科助手13名の体制だ。さくま歯科医院では月~土曜は夜21時30分まで診療、日曜も15時までの診療で、休診は祝日と年末年始のみと診療時間が長い。勤務時間や休日など人事管理も難しいように思うが、どうなのだろうか。
「開業当初からの常勤スタッフ・アルバイトスタッフ7人のうち、4人はいまもがんばってくれています。」

「スタッフは、必ず週休2日は確保しています。時間的にも8時間を基準にフレキシブルに勤務時間を決めています。そのため給料は時給で計算し、がんばればプラスアルファできるようにもしています。」

「家族の用事や子どもの学校の行事などで休みたいときには、休めるようにもしています。休むときには、心おきなく休む。その人のぶんは残った人でがんばろう。そのかわり職場に出たら自分の仕事をきっちりするということにしています。このようにメリハリをつけることで、プライベートも大切にしながら仕事もがんばれるようにしたいですね。」

「産休も好きなだけとってもらい、復帰したいというときには無条件で戻ってきてもらっています。出産・育児の期間には思い残すことなく子育てし、仕事を始められる状況になったら仕事でもがんばるというのが理想ではないでしょうか?」

医療法人社団 さくま歯科医院「スタッフひとりひとりが自分の仕事で輝けるようにしたいとも考えています。私はサッカーをやっていたときにはディフェンスというポジションだったので、自分が得点して輝くことはなかった。でも得点することも大切だけれど、相手に得点されないように守ることも大切です。組織が大きくなればなるほど、サポートが重要。ですからこの医院では医師だけでなく衛生士も助手も受付スタッフも、みんながそれぞれの仕事で輝けるように医院を運営しています。」

「機器類をそろえるだけでなく、勉強会などには積極的にスタッフを行かせています。医院で教えてもらえるものは、呼んでもいます。私も若い頃勉強会にはできるだけ出たいと思いましたが、自費で行くとなるとなかなか思い通りにはいきませんでした。ですから、ここでは若いスタッフにはこちらでお金を出して行かしているのです。費用の問題で時期を逸してほしくないですからね。」

「私がすべて教えられるわけではありませんから、それぞれが学んできたものを医院に還元してもらえればいいのです。そういうことがスタッフのモチベーションになるのであれば、高いものではありません。そのようなことを通して、たくさん認定医を取っていけばいいと思います。医師だけではなく、衛生士も学会の認定衛生士を取るために努力することが、自分のやりがいやキャリアアップにもなりますし、患者さんのためにもなります。」

院長の近況と目標

スタッフには週休2日は確実に取れるようにしているが、院長は開院時間に合わせて日曜も休みなしで仕事に臨んでいる。いまは仕事に専心のようだ。

「自分の休みは、休診の祝日だけです。しかし経営者というのはみなそうなのではないでしょうか。自分の熱意が消えたら、誰もついてきてくれません。常にファイティングポーズをとっていないと。先頭を切る人が『この方向でいくぞ』と行動で見せなければ、人を動かすことはできません。」

「予約の患者さんはもちろんですが、痛いといって来院した患者さんは断りません。医療人は、本来そうあるべきだと思っています。自分としては、すべての歯科治療ができるようになりたいと思っています。そのために、新しい機器が必要になれば投資していきます。自分が機器類を使いこなし、新しい技術を学ぶ努力をしていけば、若いドクターもできるようになります。」

「いまは仕事の毎日ですが、私は60歳定年を目標にしています。その後は、離島にでも行ってのんびりと過ごしたいですね。」

歯科医院の将来へのビジョン

医療法人社団 さくま歯科医院先進的な機器や治療を取り入れているさくま歯科医院だが、今後の展開に予定があるのだろうか。
「医院としては、特に予防歯科に力を入れたいと思っています。予防歯科をしていくと縦長の組織ではなくなり、歯科衛生士が中心の役割を担うため、歯科衛生士がもっと輝くことができます。患者さんに良かったな、得したなと思えるまたは爽快感を感じえるような場にしていきたい。将来的には美容院でメイクアップを別の場所でやるような感覚で、専用の場所を設けてやりたいですね。この分野を勉強して力を発揮したい歯科衛生士さんに、ぜひ加わってもらいたいです。」

「次にまた来院したいと思えるようなものをプレゼンしていかないと、患者さんに来ていただけません。『あそこに行けば』と思ってもらえる歯科医院になるには、歯科衛生士は患者さんと同じ目線で現場の環境改善するというとても重要なポジションにいます。歯科衛生士は資格を使って自分自身が輝くことができ、しかも人に喜んでもらえる魅力的な仕事ですね。」

タイムスケジュール

  • 医療法人社団 さくま歯科医院 佐久間栄 院長 タイムスケジュール
  • 医療法人社団 さくま歯科医院平面図