歯科経営者に聴く - みわ歯科クリニック 石井日出明理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニック 石井 日出明 理事長

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニック

クリニック全体に暖かい空気が流れている。長い治療を終えた患者さんには担当の歯科衛生士から花束が贈られる。ホームページの扉には「笑顔を造る準備は夜から始まり・・・、歯医者を超えた空間を提供する」と石井日出明院長のメッセージが流れる。
みわ歯科クリニックのシンボル「キリンさんの歯医者さんに行きたい」と、子どもたちから言われる歯科クリニックである。1992年、小児歯科をメインに東京都足立区入谷に開業した。子どもたちに愛されるクリニックは家族ぐるみのかかりつけの歯科医院になった。最近、驚異的なレセプト枚数を達成した。地域住民の信頼の証であろう。患者さんの笑顔、スタッフの笑顔が石井院長の活力源。
今回はあふれる笑顔で患者さんを迎えるみわ歯科クリニックを訪ねた。

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニック 石井 日出明 理事長

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニック 石井 日出明 理事長

プロフィール

  • 1961年1月 長野県生まれ
  • 1986年3月 明海大学歯学部(元 城西歯科大学)卒業
  • 1986年4月 東芝ビルデンタルクリニック勤務 東京医科歯科大学歯学部顎口腔総合研究施設構造研究部門 保坂晃一郎講師 師事 横浜国立大学入学
  • 1986年10月 明海大学歯学部補綴科研修生
  • 1988年1月 野田早苗先生師事
  • 1990年4月 石井歯科医院開院
  • 1992年3月 みわ歯科クリニック開院
  • 1992年6月 医療法人 健秀會 理事長就任
  • 【資格&活動】
  • 1986年4月 京セラ インプラント POI sertificate 取得
  • 1989年3月 Denar Corporation Anaheim,California 咬合スタディーコース出席
  • 1991年4月 ITI BONE FIT IMPLANT sertificate取得
  • 1992年9月 The BRANEMARK SYSTEM sertificate取得
  • 1994年5月 ADAアナハイム出席
  • 2000年8月 ハワイ州 Katsuhiko Sano,D.D.S.,Inc 症例発表会 ハワイ州 DENTECK INTERNATIONAL 視察
  • 2002年7月 Universe of Las Vegas 研修
  • 2004年9月 バンコク promjai dental clinic視察 バンコク Ponsak Orthodonic dental clinic 視察
  • 2005年5月 バンコク easy smile dental clinic 視察
  • 2007年1月 UAE DUBAI . Newyork dental office 視察
  • 2007年4月 ASTRA TECH IMPLANTS  sertificate取得
  • 2007年8月 zimmer implant sertificate取得
  • 2007年10月 seoul.Ye歯科 視察
  • 2008年6月 メデント インプラント エグゼクティブ インストラクター
  • 2008年9-10月 スウェーデン イエテボリ大学 留学
  • 2009年2月 NPO法人 歯科学研究所 認定医
  • 2009年9月・10月 スウェーデンイエテボリ大学留学 モナコ王国 EAO出席
  • 2010年5月 ハワイ大学 医学部解剖学教室 出向
  • 【所属学会など】
  • 日本口腔インプラント学会
  • NPO法人 歯科学研究所インプラント部会認定医 登録番号第031号
  • メデントインプラントエグゼクティブ インストラクター
  • アストラテック インプラント専門医
  • EAO ヨーロッパインプラント学会 アクティブメンバー
  • 日本顎咬合学会 認定医
  • 日本ヘルスケア歯科研究会 正会員
  • 日本臨床歯周療法集談会(JCPG)会員
  • 太陽歯科衛生士専門学校 臨床講師
  • クリスタルトレーナー インスティテュート インストラクター
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【開業に至るまで】

歯科医師を目指された経緯についてお聞かせください。。

特に歯科医師を目指していたわけではないのです。ただ、サラリーマンになるつもりはありませんでした。漠然と画家やファッション業界など、創造的な仕事がしたいと考えていたところに歯科医師という職業が視野に入ってきたのです。自営業(飲食業)を営んでいた父親の背中をみながら育ったので独立独歩の気概は幼い頃からあったように思います。父から私たち兄弟は、「社会貢献できるような仕事をもて!」と教育されていたからだと思います。

どのような学生生活でしたか?

大学に入ってみたら同級生の7、8割は歯科開業医の子弟でした。私は親からの仕送りが7万円でしたから、生活費を稼ぎ、彼らと対等につきあおうと思ったらアルバイトをするしかない。1、2年生の頃は余裕がありましたが、3、4年になると実習に追われるので長期休暇の時期しかアルバイトはできませんので、お中元、お歳暮シーズンは稼ぎどきでした。同級生はクラブ活動なんかして楽しそうでしたが、私は猛然と働く季節労働者でしたね(笑)。
数だけで言えば30以上のアルバイトをやりました。

同級生とはかなり違った学生生活でしたね。

確かに同級生は裕福でしたし、一方の私はアルバイトに追われる生活ですから彼岸の差は大きい。

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニック 石井 日出明 理事長大学を卒業して歯科医師の道を歩き始めてからは、飲食店の経営者を父親にもったことを誇りに思っていますが、当時は同級生がずいぶんとうらやましかったものです。「世の中にはこんな生活もあるのか」と思うほどの生活を見せられて憧れました。学生時代から何不自由なく暮らし、開業資金も親に出してもらえる同級生とではスタートラインが違うのですから、物理的には大きなハンデでしたが、不屈の精神を養うにはプラスのハンデでした。
精神的アドバンテージをもらったようなものです。

物理的なハンデを不屈の精神で乗り越えた訳ですね。

開業資金を親に出してもらおうなどとはとうてい考えていませんでしたから、同級生に追いつき、追い越すためには、相当の努力をしました。卒業して四半世紀たちますが、その間には、「自分は歯科医師でいいのか」と思った時期もあります。それで横浜国立大学の経営学部に入学をしました。しかし、大学の勉強では決算書は読めるようになっても実地の経営学は学べないことに気づきました。気づいたら即実行で中退して埼玉県の川口市で石井歯科医院を開業しました。

開業される前に歯科経営コンサルタントの野田早苗先生に師事されていますが、何を学ばれたのですか。

昭和36年に国民皆保険になった頃から歯科界のコンサルタントをされていた方で、当時、埼玉県の岩槻市でモデルクリニックを開業されていました。私はたまたまそこに引き抜かれるような形で就職したのです。歯科医院といえば、ユニットが横にズラッと並んでうがいをすれば患者さん同士が顔を見合わせてしまうようなクリニックばかりでしたが、野田先生のモデルクリニックは半個室で医師1人、歯科衛生士1人、受付兼助手が2人という診療態勢をとっていました。自由診療の患者さんが多く、補綴治療は原則として自由診療でした。自由診療率が7、8割あったと思います。当時としては異例の歯科クリニックです。そこで2年余り勤め、これからの歯科医療というものを学びました。野田先生は「これからの歯科診療は自由診療でなければ患者さんも歯科医師も幸せになれない」とおっしゃっていました。

2年後にみわ歯科クリニックを開院と言う順調な経営だったのですね。

そうではなく、思い描いていた、あるいは期待していたこととは裏腹に患者さんが来なかったのです。働けど働けど売り上げは伸びず、出費だけは増えるという状態でした。それで患者さんを増やすにどうしたらいいか頭を悩ませて出た結論が、開業して5年目までは立地条件が最優先されなければならないということでした。それから関東一円、私という個人が歯科クリニックを開業するにあたってもっとも立地条件の良い所を探し回って、ようやくたどり着いたのが現在の場所(足立区入谷)でした。人任せにしないで妻と2人で診療圏調査もしました。この場所は、昼間人口が夜間人口の2倍あることを知り、住宅地でもあり働く人も多いこの地域だと判断しました。
バブルの絶頂期で家賃も敷金も高かったのですが、再スタートの地としては最適でした。

内装やユニットの配置で心がけた点がありましたらお教えください。

内装はデザイナーにすべて任せました。石井歯科は私が1人で決めていたのですが、寝る暇もなくなってしまった。これでは体がもたないというのでプロのデザイナーに任せることにしたのです。任せてみると患者さんの評判もいい。

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニックだったら自分で何もかもやるよりも任せられるところはその道のプロにすべて任せようという気持ちになりました。自分で何もかもやってできないことはありませんが、そうすると1人よがりになりがちです。自分の思い込みが必ずしも他人と一致するとは限りません。そのことに気づいてからは自分で何もかもという考えはなくなりました。

【経営理念】

医療法人健秀會の理念(クレド)は次のようなものです。

「真心と奉仕をもち、より多くの患者さんの健康を築き、維持・増進するとともに疾病の予防をはかるため日々研鑽・努力する。医院の発展とスタッフの幸せとの一致をはかり院内で働く人々の能力開発と人間的豊かさの向上に務める。取引先等の間接的協力者に対して感謝の気持ちを忘れない」
また、コーディネーターの理念として
「患者さんと信頼関係を築き、患者さんに最高のおもてなしを心から満足していただけるように導きサポートする。そして患者さんと感動をともに分かち合う。コーディネーターと歯科医師が患者さんの情報を共有し、コミュニケーションを密にとる」ことを掲げています。この他、歯科医師、歯科衛生士それぞれにクレドがあります。しかも、それらのクレドはスタッフ自らが作成したものなのです。

【診療方針】

患者さんへの治療計画を含め料金、治療、予後の説明などすべて分担制にしています。私が1人ですべてを行うことはありません。治療方針については私が若干の説明をしますが、その後にコーディネーターが患者さんとコミュニケーションをとり、治療によって得られる患者さんの利益について説明します。具体的には患者さんが抱えている悩みや辛さが改善ないしは消失することを丁寧に説明します。歯についてのことだけでなく個々人がもっている悩みや辛さの深さは客観的には評価できません。どんな悩みでもその患者さんにとってはとても大きくて深いのです。他人がみればたいした悩みではないようにみえても当人にとっては深刻なのです。そこを理解して解決策を提示することが大事です。したがって私の診療方針を一言で言えば、患者さんの悩みに寄り添い、患者さんが望んでいる技術を提供する、ということに尽きます。

先生は予防歯科にも力を注いでいると伺いました。どのようなことを心がけていますか

自分の体の管理は自分自身で行うことが重要です。日常の口腔内のケアは患者さんご自身が心がけてやる他はありません。悪くなったら歯科クリニックに行けばいい、という考え方では予防歯科は成り立ちません。患者さんに対して「自己管理せよ」とは言いませんが、自己管理できるように指導することはとても大切だと思います。私たちが予防歯科に力を入れているのは、患者さんの20代の歯並び、20代の歯茎の状態を残したい、という思いを実現したいからです。かつて日本人の50代は高齢者でしたが、今や60歳代でもかなり若く見える人が少なくありません。予防歯科はそういう時代のニーズに合わせています。したがって、当院では日常の口腔内のケアについても丁寧な指導を行っているので予防歯科の再診率は高いですよ。

患者さんが求めることを理解するのはたやすいことではないと思われますが。

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニック患者さんとコミュニケーションを深めることが大切です。高い年齢層の方であれば、安くてボリュームがある料理よりもいくらか高くても落ち着いた雰囲気で旨い料理を食べたいということが類推できます。治療も同じです。自分自身に投資することを知っている年齢層の方には自由診療をおすすめすることになります。
しかし、誰に対しても自由診療を薦めるのは経営的にも患者さんにとってもよいことではありません。
当院では一般歯科、小児歯科、矯正歯科、予防歯科、審美歯科、インプラントなど種々の治療を実践していますが、これらは皆、患者さんの要望から生まれてきたものです。患者さんの要望が多ければ、それに応え、満足していただける治療を提供する。そのために優れた歯科医師をスタッフに加えてきました。

たびたび海外に行かれているようですが、それは海外の歯科技術を吸収するためでしょうか。

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニック大きな目的が2つあります。歯科に限らず日本人の技術は最高だと思っているようなところがあります。
しかし、保険制度の元では、新しい技術は保険の適用を受けないので、海外に比べると遅れている側面がかなりあります。自由診療に関しても、治験の壁にはばまれて、新しい技術、新しいデバイスを日常臨床になかなか導入できません。諸外国では新しい技術がどんどん臨床に導入されています。したがって、日本だけを見ていたのでは世界の趨勢に置き去りにされてしまいます。それがあるために海外にでかけます。そして、もう1つの目的は世界から日本をみるということです。世界から日本をみると、日本という国がどういう国であるのかが客観的によくわかります。物価1つとっても日本がいかに安いかが実体験としてわかる。また、外国旅行をすると、かつての日本がそうであったように、国外から多くの外国人が出稼ぎに来ています。そういう情景をみると日本が世界のなかでどういう位置にいるかがよくわかります。

【増患対策】

いろいろな方法があると思いますが、当院では患者さんからの紹介が最も大きいといえます。受診された患者さんの信頼を得て、当院で治療を終えた患者さんには、コーディネーターから「長い間、ありがとうございました」と言って花束を送り「よろしかったらお友達をご紹介ください」という一言を加えます。患者さんの信頼がないところでそれをやっても顰蹙(ひんしゅく)を買うだけですが、信頼が得られていれば、歯のことで悩んでいる人を紹介したいと思っていただけます。

【スタッフ教育】

スタッフ教育について、お聞かせください。

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニックスタッフは常勤歯科医師が7名、DH12名、DA10名など総勢29名ですが、私が、一番力を入れているのはスタッフ教育です。自立の精神を養ってほしい。精神に加えて自立できるだけのスキルを身につければ、どんな時代がきても、どんな環境にあっても立派にやっていけるはずです。
新しくスタッフに加わった歯科衛生士や受付の方の場合、私は親御さんと面接するようにしています。親御さんが私たちのクリニックに期待すること、社会に出た自分の娘に何を期待しているのかをお聞きします。多くの親御さんは社会で立派にやっていける大人になってほしいと言われます。私は、そうした親御さんの期待、負託に応えられるような教育をします。お預かりした以上、誰も見放しません。最後まで責任をもちます。だからウチのスタッフは長く勤めてくれるのです。

スタッフの自立の精神を養うための教育についてもう少しお聞かせください。

「卒啄同機」(そくたくどうき)という言葉があります。禅の言葉ですが、親鳥が孵化しそうな卵の殻を絶妙な機会をとらえて嘴で突いて、内側から殻を破れるようにしてやることです。
私はこれを人材育成に応用しています。スタッフが自らの殻を破ろうとする、そのときにほんの少し手を貸してやれば、人は勝手に育っていきます。先ほど、クレド(理念)はスタッフ自らがつくったと言いましたが、彼らは自分の力で育ってくれたのです。スタッフ教育という意味で、具体的な事例を1つあげれば、高級ホテル(浦安のシェラトンホテル)のエグゼクティブラウンジに連れて行って、他業種のスタッフの接遇態度を実際に見せることをしています。ラウンジに行くと、ホテルのスタッフは私の名前を覚えていて「石井様、いらっしゃいませ」と挨拶をします。なぜ、できるのか。ホテルにはラウンジに足を運ぶ客のデータがそろっていて、従業員はみんなそれを覚えているのです。客の心をつかむ術を知っているのです。そういう場面を実際に体感することで、「なるほど」と納得します。
一流の接客態度を知ることで自らも一流になれるのです。

先生はスタッフとしてどのような人材を求めていらっしゃいますか。

初めから理想的な人材を求めようとは思いません。そういう方がいたとしても私と巡り会う機会はきわめて稀でしょう。ですから、スタッフとして加わった方は、私が責任をもって育てます。
最初に開業して1年後、現在のみわ歯科クリニックでマネージャーをしている蔵満裕子がスタッフに加わりました。

医療法人 健秀會 みわ歯科クリニック彼女は、高学歴や特別履歴書に書くようなスキルはありませんでしたが、部下を統率して1つの目的に向かわせる得難い能力がありました。前職での経験そして私と一緒に働く中で、更に進化していきました。そのことで、知識よりも知恵の方が重要であることを教えられました。彼女と出会って、学力と社会に出てからの能力は決して一致しないのだということを知ったのです。
東北大学医学部に進学して医師になった兄に対してコンプレックスを抱き、学力と社会での成功はパラレルの関係にあると思っていた私には衝撃的な出会いでした。

【今後の展開】

目標は毎日変わります。つい先日、レセプト1600枚を達成したので、次の目標を考えています。短期の目標を設定して達成感を分かち合っています。分院展開などは考えていません。
現在あるクリニックの内容を充実させていくことが大切だと考えています。

【開業に向けてのアドバイス】

もっとも大切なのは自立心です。開業医になることが本当に幸せにつながるのか、それとも勤務医でいた方が幸せなのかをじっくりと考えることです。さらに言えば、歯科医師ではない人生があるかもしれない。よく考えた上で、誰にも頼らない確固とした自立心があるならば開業してもいいと思いますが、そうでないなら開業しない方がいいでしょう。

【プライベート】

趣味ですか。車と旅行くらいですね。車は働く男のリビドーですかね(笑)。エンジン音が好きなのでスポーツカーが好きですね。家族とは旅行を楽しみます。以前は子どもたちと一緒だったのですが、最近は夫婦で旅行をしています。子どもを連れて行くと贅沢を覚えてしまうからです。子どもの頃から贅沢を覚えてよいことは何もありませんからね

【タイムスケジュール】

  • 医療法人 健秀會 みわ歯科クリニック 石井 日出明 理事長