歯科経営者に聴く - エルアージュ歯科クリニックの加藤俊夫理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

イエテボリの学ぶ一患者さんに寄り添う/歯科衛生士 久保田 DH

歯科家等先進国であり、インプラントの発祥の地でもあるスエーデン。その国内第二の都市にあるイエテボリ大学の名は、歯科医療に携わる人なら一度は耳にしたことがあるでしょう。イエテボリ大学の歴史は古いですが、その名が世界に知られるのは1967年に設立され、わずか30年で歯学界をリードする地位を築いた歯学部の功績によるとこよが大きいです。
そのイエテボリ大学歯学部サマーセミナーに参加された、たなか歯科クリニックの久保田衛生士に、今回はお話を伺いました。

歯科衛生士 久保田 DH

歯科衛生士としての歩み

歯科衛生士 久保田 DH久保田さんが歯科衛生士を志したのは、小学生の頃だったと言います。
「身内が歯科関係者がいたので、この仕事のことは知っていました。小さい頃から、何となく歯科衛生士になりたいと思っていたのです。日の生き死にに立ち会う看護師までやる自身はなかったのですけれど、人の役に立つ職業に就きたいと思っていました。」

高校でも理系進学コースを選択、順調に進学します。しかし衛生士学校で待っていたのは予想以上に厳しい生活でした。

「朝から夕方まで授業がびっちり入っていて、遊ぶ時間もありません。専門用語も難しくて、読めない漢字もありました。実習に入ってからも、単調で細かい作業の積み重ねが多く、何度もやめたいと思いました」

それでも投げ出すことなく卒業し、その後開業医に就職しました。
のちに、身内の歯科医師が手伝っていた医院が新規オープンで人手不足になったのを機に、そちらの診療所に移りました。ここで初めて、歯科衛生士としての仕事を基礎から教えられた、と言います。ようやく衛生士としての仕事の面白さに目覚めてきたところで、たなか歯科クリニックから声がかかりました。歯科衛生士不足から「どうしても来て欲しい」と請われ、転院を決意しました。

歯科衛生士 久保田 DH「田中先生は今までのドクターと違っていました。一人一人のスタッフの性格をよく見て、自分の意見ばかりを押し付けることはなく、うまく患者さんの前でカバーしてくれたり、困った時は相談に応じてくれたり、常に色々な事を話してくれます。
患者さんと接する時も床に座ってゆっくり話したりして安心感をあたえます。そんな優しさと人間性に、一番感動しました。」

人情味溢れる下町の空気も肌に合ったのかもしれません。楽しみながら、六年半 の衛生士生活があっというまに過ぎていきました。

イエテボリ大学へ

歯科衛生士 久保田 DHそんな久保田さんが留学を考えたきっかけは、テレビで見たフィンランドの歯科医療だったと言います。
「積極的に海外に学びに行き、定期的なメンテナンス予防歯科医療の大切さを訴えている日本の歯科医師が登場しました。わたしたちは当たり前に毎日取り組んでいたことなのですが、これから多くの人に伝えようと一生懸命な先生の姿に感動したのです」

その話を医院でしたところ、田中先生からは「やっと気付いたか」との答え。
「良い大学がある」と勧められ、調べるうちにサマーセミナーのことを知りました。先生は気持ちよく送りだしてくれたと言います。八月の終わり、遂に念願のスウェーデンの地を踏みました。

「講義や実習といったプログラムを受け、その後は現地の個人診療所や身障者施設などを見学させてもらいました。どの授業もすばらしくとても納得ができました、理解もできました、今までやってきたことが間違っていなかったとホッとする思いもありました。そして、とてもすばらしい先生や衛生士さんに会う事ができ、その方達から患者さんに対する気持ち、やさしさや感動を得ることができました。現代の衛生士さん達は、あらゆる面で、かなりのスペシャリストでした。」

「日本ではどうしても歯科医師の指示通りに動くだけになりがちですが、向こうの歯科衛生士は自ら診断します。浸麻と伝麻を打つことができ、歯科医師と同等の扱いを受けています。歯一本一本についてもドクター以上に把握しているくらいです。単独の診察室を持って、朝から晩までとても忙しく、雑用をやらされていることはまずありません。もちろん、その分責任は負わなければなりませんけどね」

もう1つ、イエテボリでは得がたい経験がありました。衛生士さん同士の交流です。

「歯科衛生士にも、本当にやりたくてやっている人と、機械的にこなしているだけの人がいます。イエテボリまで来る人は、当然やる気がある人たちです。若くても頑張っている人、五十代でもバリバリやっている人、みんな一生懸命です。熱意のある人とお話できたことは、とても刺激になりました。

衛生士を目指す人に

歯科衛生士 久保田 DHそんな久保田さんに、歯科衛生士を志す学生さん、そして若い歯科衛生士に向けて メッセージを伺いました。
「歯科衛生士は人と触れあう仕事です。一生懸命な気持ちがあれば、必ず患者さんには伝わります。その中に感動や喜びがあり、自信につながっていくのです。単調な要素も多く、初めは辛いこともあったのですが、やっていくうちに面白さが わかってくるものです。日々、患者さんに学ばせてもらっています」

久保田さんは、住宅街の診療所ならではの良さも強調されています。

「オフィス街の歯科医院に勤めていたこともありましたが、患者さんはお忙しい方ばかりなので、なかなか診療に来られなかったり、一方通行な関係になってしまいがちでした。
その点、今の診療所では家族ぐるみのおつき合いができます。道で挨拶することも ありますし、治療に来られた患者さんの話を一時間くらい聞いていることもあります。ドクターがいない時でも、"クリーニングだけだから"と会いに来てくださる患者さんもいらっしゃいます。」

イエテボリ大学を訪れた時も、患者さんに手を差し伸べてとても喜ばれたことがあると言います。メンタルな部分の大切さは洋の東西を問わないようです。
歯科医師より患者さんに近い位置にいる歯科衛生士は、それだけ患者さんの心に触れられる機会があります。歯科衛生医師という仕事には、歯科医院を「痛いから仕方なく」訪れるのではなく、癒される場に変えていく可能性があるのです。

「今のクリニックは担当医制で、オリジナルなやり方も許して貰えます。歯科医師の方針との相性も大切です。良いドクターと巡り合えれば、歯科衛生士は本当にやりがいのある仕事です」

実にアットホームな雰囲気のたなか歯科クリニックと、優しい笑顔が印象的な久保田さんは、抜群の相性だったようです。