歯科経営者に聴く - 山内歯科口腔外科 山内義之院長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

山内歯科口腔外科 山内 義 之院長

今月ご紹介する山内歯科口腔外科は兵庫県芦屋市の市立芦屋病院内に2006年に開業した。
公的病院の経営難が取りざたされる昨今、市立芦屋病院も例外ではなく、診療科の中でも歯科などいくつかの科が不採算となっていた。そこで全国初の試みとして、院内の空いたスペースに「芦屋メディカルコミュニティー診療所」を開設し、開業医を募った。
40名を超える応募者の中から選ばれたのが山内義之院長である。山内院長は口腔外科を専門とし、大阪市の日生病院で口腔外科部長の要職にあったが、この機会を得て、地域医療の道を歩むことになった。
山内院長に勤務医時代、開業に至るいきさつ、開業後のことなど、お話を伺ってきた。

山内歯科口腔外科 山内義之 院長

山内歯科口腔外科 山内 義 之院長

プロフィール

  • 1959年に徳島県で生まれ、神戸市、芦屋市で育つ。
  • 1989年に大阪歯科大学を卒業後、大阪歯科大学歯科麻酔学講座に入局する。
  • 1990年に兵庫県立こども病院麻酔科に勤務し、麻酔科の研鑽を積む。
  • 1992年に大阪市の行岡病院口腔外科に勤務し、2003年に大阪市の日生病院に口腔外科部長として着任する。
  • 2006年に同病院を退職し、芦屋市に山内歯科口腔外科を開業する。

歯科医院の沿革

山内歯科口腔外科山内歯科口腔外科は全国で初めて公的病院での院内開業を行った歯科医院である。院内開業とは、病院に賃料を支払い、独立したスタッフ、会計で診療所を経営するというものだ。また入院や手術にあたっては病院内の施設や開放型病床が利用可能である。市立芦屋病院は芦屋市からの補助金削減を受け、赤字縮小のための改善策として院内開業を計画した。そして病院のホームページや広報誌で応募者を募り、山内院長も広報誌を目にする。

「私の場合は子どもに恵まれたのが遅く、下の子は46歳のときに生まれたんです。勤務医には定年がありますから、子どもが成人するまで働き続けるには開業しかないと考えるようになっていました。長く芦屋に住んでいましたので、市立芦屋病院に歯科があることは知っていましたけど、そこで開業するとは思ってもいませんでした(笑)。尼崎や西宮で物件を探していたところ、市の広報誌で院内開業の記事を見つけ、問い合わせをしたのです。」

山内院長は大学時代に「歯医者だけを一生やるより、他のこともしてみたい」と思い、麻酔科に進み、その後は口腔外科医としてのキャリアを積んできた。そのキャリアが現在も十分に生かせるのは院内開業というスタイルによるところが大きい。

「中学生のときになだいなだ先生の本を読んで精神科医に憧れたり、バリエーションのある生き方をしていきたいと思っていたんです。麻酔科を志したのもそういう気持ちが根底にあったからですね。兵庫県立こども病院の麻酔科に勤務したときはシビアな症例ばかりでしたので、技術の向上というよりも、子どもに対する思い、人生観などに大きな影響を与えられました。その後は口腔外科医として再スタートを切りました。行岡病院では顎骨折手術の件数が多く、400例ほど担当したでしょうか。天神橋筋という繁華街の近くでしたから、喧嘩などで重傷を負った患者さんが担ぎ込まれてくることも多かったですよ(笑)。耳鼻科、形成外科がない病院でしたので、本当に幅広い症例を経験できました。開業後も額骨折の手術など、勤務医時代の経験を生かせています。」

さらに口腔外科部長として招聘された日生病院では栄養管理チームにも所属した。栄養管理は歯科医療とも深く関係するだけに272床もの病床を持つ市立芦屋病院でも活躍が期待される。

「TPNコースの講座を受講した後に資格を得て、NST(栄養管理)チームに入りました。私が資格を取得したときは全国にまだ30人ほどの歯科医師しかいませんでした。患者さんに栄養を入れていく方法としては経口摂取が最良なのですが、そこに歯科医師が加わるのはごく自然なことだと思っています。食事を摂ることができない原因が入れ歯が合わないだけということもよくありますからね。」

山内歯科口腔外科山内院長は応募にあたり、芦屋市に様々な情報開示を求め、自身の経営戦略を固めていった。
「市立芦屋病院時代の歯科もデータとしては悪くなかったんです。1日の外来患者数は約30人で、年間の売上は6000万ほどありました。ただ人件費が高かったんですね。歯科衛生士も市の職員という扱いですから、年功序列で昇給していきますし。人件費を見直せば悪い話ではないと思い、応募に踏み切りました。」

40人を超える応募者の中から、最終的に4人が残り、芦屋市助役、市立芦屋病院の院長、副院長、芦屋市歯科医師会長が揃った面接を経て、山内院長が開業を任されることになった。

「私を選んで頂いた理由ですか?口腔外科医としてのキャリア、部長職の経験、それから栄養管理やケアマネージャーの資格に評価を頂いたのかなあと思っていたのですが、実際のところは私が芦屋市民だったというところが大きいのかもしれません(笑)。」

病院の特徴(コアコンピタンス)

手術室

山内歯科口腔外科市立芦屋病院の手術室を利用して、高度医療を行っている。口腔外科専門の山内院長が最も力を発揮できる部門である。さらに開放型病床の入院施設も利用できるため、病院からドクターフィーが発生する。
「顎骨内腫瘍の手術なども多いですね。麻酔科と連携して行っています。今のところ、高度医療は月に1例ほどですが、現在も4、5人の患者さんにお待ち頂いています。親知らず近辺の嚢胞の手術など、手術室をお借りする必要のないものはこちらで行っています。こちらでの手術にあたっては全身管理ができる友人に非常勤で来てもらっています。」

特殊レントゲン撮影

CTやMRIなど病院の医療設備が利用可能である。これらのX線検査にあたっては山内歯科口腔外科と病院との個別の契約を交わし、山内歯科口腔外科が使用料を支払っている。院内開業を開始するにあたり、芦屋市では様々なシステムを構築していったが、山内院長は「合理的にできていますよ」と信頼を寄せている。

他科との連携

市立芦屋病院の入院患者が紹介されて来院したり、山内歯科口腔外科から内科などへ紹介状を出すなど、真の病診連携が進んでいる。

「市立芦屋病院の入院患者さんは化学療法を受けているがん患者さんが多いんです。白血球や血小板が減少していますので、歯科治療にも細心の注意を払っています。また高血圧、心筋梗塞といった内科疾患の患者さんも多いですし、そういった有病者の方には麻酔の管理などがメインとなります。」

障害者歯科

山内歯科口腔外科は障害者歯科の二次医療機関としての指定を受けている。山内院長はかつて神戸市立こうべ市歯科センターで年間500例に及ぶ全身管理を行い、障害者歯科を学んできた。

「精神発達遅滞や自閉症の子どもさんなどは行動調整が難しいのですが、麻酔を効果的に使用することで、患者さんにとってベストな治療を目指していきたいですね。」

完全無痛治療

無痛治療を謳う歯科医院は多いが、山内歯科口腔外科ではインプラント手術の際の管理と同様な全身麻酔を行うことで、より「完全」な無痛治療を実現している。

「無痛治療と言っていても針を刺すところの表面に薬を塗るだけなのでチクっとした痛みはあります。私どもでは点滴で導入剤を入れて、全身麻酔を行います。したがって患者さんが寝ている間に全て終わります。さらにリバースという薬で麻酔の効きを終了させられますので、予後も良いですね。」

舌痛症、口腔乾燥症

山内歯科口腔外科では舌痛症、口腔乾燥症の治療にも力を入れている。

「細菌が原因となっているケースも多いので、細菌同定検査を行ったうえで、漢方薬、胃薬を組み合わせた処方をしています。どのケースにおいても統計をとっていますが、原因不明なこともあります。そういうときにこそ患者さんの話を最後まで丁寧に聞くことを心がけています。」

経営方針

山内歯科口腔外科山内院長に経営方針をお尋ねした。

「歯科の開業としては遅い、47歳での開業でしたので、ストレスがかかることはやめよう、必死になることもやめよう、院内開業だからといって特別なことをしようとするのではなく、従来の開業方法を踏襲しようと考えたのです。ですから特にプレッシャーもありませんよ。材料の購入など、勤務医のときにはあまり気にしなかったコストを計算するといった経営者ならではの悩みはありますね。それに公的病院の院内開業は初めてのケースでしたので、法律を解釈して、実情と整合させていくことは難しかったです。」

「全国的にも注目して頂いた開業のようで、開院前には芦屋市役所で記者会見を行いました。お蔭様で新聞や広報誌だけでなく、NHKニュースや芦屋のケーブルテレビで取り上げられました。ケーブルテレビに至っては同じ内容が7回も放送されたので、十分な宣伝になりましたよ(笑)。テレビの効果は大きいので、こちらから増患対策をすることなく、現在に至っています。初日も開院の30分前に出勤したら、既に5人の患者さんが並んでくださっていました。」

「最近の歯科医院では夜8時までの診療も当たり前のようですが、ここはJR芦屋駅から1.5キロも離れており、遅くまで診察することのメリットがあまりありません。6時までとした理由は5時に業務を終えた市立芦屋病院の職員さんに来て頂こうと考えたからで、実際に多くの職員さんに来院して頂いています。」

プライベート

山内院長はスポーツが好きで、テニスやゴルフが趣味だという。テニスは奥様もされており、ご夫婦で試合に出場する機会もある。

「子どもが4歳、2歳と小さいので、小さいうちにいろんなところに連れていってやりたいのですが、開業するとなかなか時間に余裕ができないんですよね。夏休みは1週間ほどとれそうですので、家族でオーストラリアに旅行する予定です。」

メッセージ

「保険点数の改正は歯科医院をいじめているとしか思えないですね。抜本的な見直しを考えて頂きたいものです。」

「勤務している歯科医院のやり方に染まることは当然なのですが、その方法がベストなのかどうかを客観的に考えていくことは必要でしょう。歯科診療には様々な方法があるのですから、今のやり方を信じきるだけでなく、広い視野から物事を捉えてほしいですね。」

将来への展望

山内院長に、今後の展開について伺った。

「明日の夕方までのことしか考えないタイプの人間ですので、将来のことはどうなっていくのか予想もつきません(笑)。ただインプラントに関しては、9月からは歯科医院内で行うことになりましたので、徐々に症例数も増えていくのではないでしょうか。」

プライベート

山内院長に、今後の展開について伺った。

「明日の夕方までのことしか考えないタイプの人間ですので、将来のことはどうなっていくのか予想もつきません(笑)。ただインプラントに関しては、9月からは歯科医院内で行うことになりましたので、徐々に症例数も増えていくのではないでしょうか。」