やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術

チーム医療!患者さんが信頼を寄せるクリニックづくり ~やさしい心理学から学ぶコミュニケーション術~【第4回】 こんな時どうする?!患者さんの対応を考えよう!――あなたの対応はヘルプ?それともサポート?

坪野慶明 医療法人社団 桜実会 おおど歯科クリニック 理事長

水木さとみ (Mizuki Satomi)

オフィシャルホームページ
http://www.mizuki-satomi.jp/
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【問題】

【突然ですが、ここで問題です!】
深い穴に、あなたの子供が落ちてしまいました。子供を救う方法は次の2通りです(図1)。あなたならどちらにしますか?


【A】
子供を救い出すためには、まず、穴の中にはしごを入れる。
そして、母親自らはしごをつたわって、穴の中に降りていき、子供に危険がないよう注意を払いながら、一緒に上がってくる

【B】
子供を救い出すために、まず、穴の中にロープを投げる。
母親はしっかりとロープを握りしめ、「大丈夫よ!あなたならできる!頑張れ!」と子供の力を信じ、励まし続け、子供自らの力で上がってくるのを支援する

いかがでしたか?
実は、この2つの方法の違いは、子供が成長していく上で大きな意味をもたらします。

【A】の方法は、母親自ら穴の中に入り、母親の力で子供を救い出すという救出法でした。子供は恐怖心から解放されます。全てを母親に身を任せ、頼ることができる状況にあります。困った時には母親が助けてくれることを学習した子供は、その後も、母親に依存することで身を守ることとなり、自立をも妨げてしまうこととなります。

一方、【B】の方法では、母親は子供の力を信じ、励まし続けながら見守る態勢をとっています。子供は、不安や恐怖でいっぱいになるかもしれません。しかし、自分の力ではい上がることができた子供は、大きな“達成感”を得ることができ、さらに、そうした達成感は「自信」となって、チャレンジ精神を養っていくことができます。

この救出法から意味すること、それは「子供の自立」へのサポートです。 【A】は助ける方法、つまり「ヘルプ」を意味し、【B】は支援する方法、つまり「サポート」を意味します。

【メインテナンスへのサポートとは?】

長期にわたる患者さんのメインテナンスでは、患者さん自らの口腔内清掃へのモチベーションが求められます。歯科衛生士は、患者さんの自立を支援していく必要があります。
そのアプローチ法をご紹介しましょう。

TBIをした患者さんです。自宅での歯磨きをして頂きたいものの、患者さんはなかなか実践してはくれません。

来院する度に「夜はお酒を飲むと、つい(歯磨きをせず)寝ちゃうんだよ」と、苦笑いの患者さん。歯周病が進行しているものの、担当歯科衛生士は「仕方ないですね、ではお口のケアを始めますよ、お口を開けて下さい」とすんなりケアを始めてしまいました。

この繰り返しは、患者さんの自発的な行動を妨げ、歯科衛生士への依存を強める一方です。
日々の口腔内ケアは、自分のためという自覚からはずれ、歯科衛生士にお任せすることとなります。

お任せ予防は、自宅での口腔内清掃も低下します。後になって「ちゃんと、定期的に(クリニックに)通っていたのに、症状は悪化してしまったよ!」とクレームを招く事態になってしまっては、お互いの不幸を招きます。

ここは、患者さん自身に今一度、考えて頂くチャンスかもしれません。
患者さんの歯ブラシ行動を強化していくために考えます。

患者さんは、口腔ケアの重要性は理解しているものの、なかなか実行できないといった矛盾に、気づいて頂く必要があります。その上で、行動変容(患者さん自らの意思により、行動を変えていく)へのアプローチをします。
そのコミュニケーション例を下記に示します。

【コミュケーション例】

歯科衛生士:お酒を飲んだ後、歯ブラシをすることなく、そのまま寝てしまわれるのですね?困りましたねぇ、どうしたら良いものでしょうか?
(この質問は、患者さんの問題行動について、投げかけることで患者さん自身、考えて頂きます。)

患者さん:う~ん、そうだなぁ、 どうしても、つい忘れちゃうんだよな・・・(口腔内清掃の重要性は)わかっているんだけどねぇ・・・ダメなんだ。

歯科衛生士:そうですか・・・何か良い方法はないものでしょうか?
(歯科衛生士が直ぐに回答を示すことは避けます。あくまでも患者さんに考えて頂き、発言して頂くまで待ちます)

患者さん:そうだなぁ・・・う~ん・・・(考えている様子) そうだ!(お酒の)ボトルに「飲んだら磨く!」とでも書いておくかな。 嫌でも目につくから、絶対に忘れることはないさ!なんだか、酒がまずくなりそうで量も減るのかなぁ(笑)

歯科衛生士:それはとても良いアイディアですね!楽しみです。 次回、効果の程を聴かせて下さいね。それでも何らかの問題があったら、また一緒に考えていきましょう。
(担当歯科衛生士は、患者さんの自発的な発言を尊重し、サポートしていきます)

仮に、「毎晩、必ず歯を磨いて下さいよ」と、指示するだけのものだったら、患者さんの歯ブラシの継続は不可能です。なぜなら、そこには患者さん自らの意思ではないからです。

人は、自らの意思による行動は強化されますが、他者から言われて行動せざるをえなくなった状態では、意識は希薄になるものです。

長期に続く口腔ケアは、患者さんの自立をサポートすることが重要であり、そこには、患者さんと歯科衛生士との互いの協力があってこそ成功に導かれます。

メインテナンスにおける患者支援、是非、明日からの臨床に実践して下さい。