歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

みよりなのはな歯科 椎葉まゆみ院長

みよりなのはな歯科

岡山県総社市は岡山市に隣接し、かつての吉備国の中心地域である。桃太郎伝説のモデルとされる吉備津彦命と鬼神である温羅(ウラ)の伝説が残り、備中国分寺や多くの古墳など、遺跡や史跡に恵まれた街である。
総社市に2009年に開設された、みよりなのはな歯科はJR伯備線の清音駅から車で4分の場所にある。「あなたには笑顔でいて欲しい」をコンセプトに、「まごころと情熱」を持った診療を行っている。

みよりなのはな歯科 院長 椎葉まゆみ 先生

みよりなのはな歯科 椎葉まゆみ院長

プロフィール

  • 1973年 島根県生まれ 広島県広島市育ち
  • 1997年 広島大学歯学部第二補綴科入局
  • 1999年 岡山県倉敷市内総合病院勤務医
  • 2002年 岡山県倉敷市内歯科医院勤務医(分院長)
  • 2005年 岡山県真備町(現倉敷市内)勤務医
  • 2009年 総杜市内 みよりなのはな歯科開設
  • 【学会 他】
  • 日本補綴歯科学会
  • 日本口腔インプラント学会
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【開業に至るまで】

■歯科医師を目指されたきっかけはどんなことでしょうか。

恥ずかしながら、歯科医師になりたいという強い希望があったわけではありません。父はサラリーマン、母は専業主婦で、親戚にも一人も医療関係者はいませんでした。高校時代に進路を考えるときに何となく医学部を希望していましたが、どうしても現役合格できるところということで、地元の大学の歯学部を受験したのです。ですから、「こんな歯科医師になって、こんな歯科医療をしたい」という思いもなく、勉強したら歯科医師になれるのだろうなぐらいの気持ちしかありませんでした。志のある若い方を見ると本当に恥ずかしく思います。

■大学時代のエピソードをお聞かせください。

歯学部に入り、今までのように真面目に机に座って勉強すれば歯科医師になれると思っていた私ですが、実習が始まると技術系のことは苦手だったうえに好きでもなかったので、優等生?から突然、落ちこぼれになりました。自分には無理だ、向いていないのだと基礎系への道も考えました。ところが、臨床実習で実際に患者さんとお話しするようになると、「なんて楽しいのだろう。私も将来は患者さんを笑顔にさせる技術も知識もあり、人間的にも素晴らしい歯科医師になりたい」と強く思うようになりました。そんな歯科医師になるためには他の人の何倍も努力しないと無理なのだと最初に覚悟できたお蔭で、今まで勉強を続けることができ開業までできたのだと思います。理想にはまだ程遠いのですが、これからも努力を続けていきます。

■勤務先を選ばれたのはどういった理由からですか。

研修医終了後、甘えのない環境で勉強したかったので、医局の出張先だった県外(岡山県)の病院勤務を希望しました。「武者修行」のような感じでしょうか。入院患者さんもいらっしゃり、口腔ケアや訪問診療なども学ぶことができました。少し経験を積み、次は分院長として一人で歯科医院を切り盛りするという道を選びましたが、やはり甘くはありませんでした。技術的にも人間的にも未熟だったために、スタッフ全員に辞められたこともありました。精神的にもとても辛く、泣きながら診療したこともありましたが、これではいけないと気づき、もう一度技術の習得を徹底するために勤務医として就職し、その4年後に開業することができました。現在ではどの病院、医院での経験もとてもためになったと思っています。今、恵まれない立場にいると感じている歯科医師の先生がいらっしゃるかもしれませんが、必ずやその経験が活きる日が来るとお伝えしたいです。

■開業しようと決断されたいきさつをお聞かせください。

男性の先生は早い段階から開業を意識されるようですが、私は女性ということもあり開業すべきかどうか迷っていました。ただ、経験を積めば積むほど、勤務医の立場のままでは自分の理想の診療はできないというジレンマが強くなっていったのです。また、歯科医師としてずっと働きたいと考えていましたし、自分のペースで一生涯、働き続けられる職場がほしいと思うようになっていきました。開業を決断したのは分院長として勤務していた頃ですが、「地盤・看板・かばん」のどれもありませんでしたので、自分ができる範囲のこじんまりした規模でやってみたいと考え、本格的に物件を探し始めました。不動産屋さんにもお願いしていましたが数年が過ぎ去り、もう諦めようとした矢先に、今の物件に出会い開業することができました。

■開業にあたってのコンセプトやこだわりなどをお願いします。

みよりなのはな歯科数年探して、やっと出会えた物件はコンビニエンスストアの跡でした。駐車場はとても広いけれども、「田んぼの中の一軒家」状態です。一体、どれくらいの方が周辺に住んでらっしゃるのだろうと人口を調べて、その少なさにまたびっくりです。でも、なるべく資金をかけず、小さな規模で開業したいという私の希望には合っていました。 こだわりはチェアの間隔を一般の歯科医院の倍ぐらいにして、ゆったり感を出したことと、トイレを男女別にしたことでしょうか。男の人は何とも思っていないみたいですが、女性は男性と同じトイレに入ることは抵抗があるものです。何度も予算の関係で設計途中に消えかけましたが、ここだけは譲れないと頑張りました。もちろん患者さんにもとても好評です。





みよりなのはな歯科チェアも無理すればあと4台は置けましたが、「少人数の患者さんをゆっくり診療する医院にしたい」というコンセプトから、3台スペースとしました。メーカーや歯科材料店の方にはもったいないと言われましたが、この環境だから私のコンセプトに合った患者さんが来てくださったのだと思います。数年前から開業場所の目星をつけては、勝手に今の主人と図面を引いたり、ほかの歯科医院を見学したりして妄想していました(笑)。そのお蔭で、一般論に流されず自信を持って主張できました。 スタッフは以前勤務していた歯科医院で一緒だった方に声をかけました。今の主任ですが、たまたま家も近くて勤めてもらえることになりました。彼女のお蔭で今の当院があると言っても過言ではない優秀な人材です。縁はすごいなあと感じています。真っ白の箱に、二人で少しずつ物を揃えていったのは今となっては良い思い出です。

【経営理念】

■経営理念をお聞かせください。

みよりなのはな歯科私は多くの方々のお蔭で開業することができました。もちろん自分も努力しましたが、一人の力では何もできません。開業できたことに感謝し、まずはこの地域の方々の健康で幸せな生活に少しでも役に立ちたいです。小さな目標に聞こえるかもしれませんが、自分の足元をまず照らしていくことが大切だと感じています。スタッフは皆、お母さんです。彼女たちの足元はまず家庭ですから、家庭との両立ができる仕事環境にすることを努力しています。
そして、私たち自身も健康でなければ貢献はできませんし、技術知識の研鑽も必要です。そのため、ほかの歯科医院に比べると診療時間を短くすることで、「医療人としてパワーアップするための時間」と「子どもたちと触れ合う時間」と「自分をケアする時間」を何とか捻出しています。ただ、女性同士の仲良しクラブではなく、企業である以上は「売上を最大にし、コストを最小にすること」はスタッフも私も常に意識しています。長く地域に貢献するためには利益を出し続けなければいけません。男性の先生よりも多分、私は細かいと思います。ただ、私の理想とする診療を行うために開業費用は一般的な医院の1/3程度しかかけておらず、点数やレセプト枚数も平均より少なくても経営的には成り立つような経営システムにしています。

【診療方針】

■診療方針はどういったものですか。

みよりなのはな歯科「安心・安全・行きたくなる歯科医院」を目指しています。患者さんにとっても、スタッフにとっても、ストレスの少ない明るい場所にしたいのです。そのために、感染の心配のない清潔な環境で、私が女性であるということを活かし、怖くない、痛くない、丁寧な治療を行っています。スタッフを怒鳴ったりもしませんよ(笑)。特に、今年からAEDや医療用高機能空気清浄器を設置し、健康に配慮した環境づくりに力を入れています。患者数はゆとりを持って丁寧に診療するために20人以下が目標です。しかし、経営的には有り難いことですが越えてしまうというのが現状です。私自身は補綴治療が得意なのですが、診療内容は小児の予防治療から義歯、口腔ケアまで幅広いです。ご家族皆さんで来ていただいている患者さんも多く、ホームドクターという感じです。また、個々の方に合ったケア用品のご紹介にも力を入れており好評を頂いております。患者さんから「来ると安心するのよね」と言っていただけるのがとても嬉しいです。
さらに、最高の治療を提供したいので、専門治療は専門の歯科医師にというのが私の方針です。インプラントオペは日本口腔インプラント学会専門医の先生にお願いし、補綴は私が行っています。また矯正治療は認定医の先生をご紹介しています。自費治療も多いのですが、県外の優秀な技工士の先生にお願いしています。技工料はそれなりにしますが、自信を持って良いものをご提供できています。

【増患対策】

■どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。

みよりなのはな歯科当院は田舎にありますので、看板設置やホームページなどのツールよりも、断然、口コミです。当たり前なのですが、来ていただいた患者さんに誠意を持って、丁寧に診療することを心がけています。「増患対策」で一時的に増えたとしても、患者さんにも、当院にも良いことはあまりありません。ご家族を紹介していただき、じわじわと増えることでこちらも無理をせず、体制を整えることができていますし、リコールやメンテナンスで定期的に来てくださる方が増えています。「顔を見に来たついでに、歯も診てね」という感じです。土地柄や私が女性であるということもあると思いますが、掃除、挨拶、身だしなみ、そして笑顔のお蔭でしょうか。気持ちの良い場所に人は集まると思います。

【スタッフ教育】

■スタッフ教育について、お聞かせください

みよりなのはな歯科 お昼に午前の患者さんについて、帰る前に午後の患者さんと次の日の患者さんの治療計画や注意事項、気づきなどをミーティングしながら、改善点などを話し合っています。また、月に1度、自費担当技工士さんや異業種の方などの外部講師にお願いして、講義をしてもらっています。内容は歯科関連のこともあれば、ほかの営業職のお話だったりします。
また女性として美しい文字は必須だと思っていますので、主任には通信講座の「ボールペン字講座」を受講してもらいました。患者さんからも「きれいな字ね」と褒められているようです。現在はレセプトの勉強もしてもらっています。インプラントなどの専門事項は院外の研修会に出席したこともあります。私は診療の一瞬一瞬を大切にしています。それこそ「一期一会」という気持ちです。これに優る勉強はありません。スタッフも「当院の向かう方向」について、私が熱く語っているので、自ら本を読んだりしているようです。

【今後の展開】

■今後の展開について、お聞かせください。

今年4月に診療終了時刻を18時から17時に変更しました。今後の展開目標としては「経営的規模の縮小」です。既に十分小さいと思われるでしょうが、患者数が多くなりすぎないように調整し、一人一人の方に安心、安全な歯科医療を提供していくことが課題です。もちろん待ち時間も限りなくゼロを目指しています。レセプト枚数、患者数を競う歯科医院からの脱却は規模拡大よりも経営的、心情的にも難しいです。ただ、患者さんの満足は格段に上がってきているとスタッフ一同感じています。加えて、物品の売上も初年度の10倍、リコール率も非常に高くなってきました。 スタッフ同士も仲が良く、日々、切磋琢磨しているなあと感じています。私も年齢を重ねたのに、すごく健康になりましたよ(笑)。「細く、長い経営」は地味かもしれませんが、ストレスの少ない、笑顔あふれる歯科医院での時間はとても有意義なものです。私とスタッフとの目標は、今と働き方は変わったとしても、「おばあちゃんになっても皆で診療しましょう」です。

【開業に向けてのアドバイス】

■開業に向けてのアドバイスをお願いします。

みよりなのはな歯科やはり「どんな歯科医師になりたいか、どのような診療をして社会に貢献していきたいか」を強く意識し、実践することでしょうか。開業してみないと分からないことが多くあり、方向修正も出てきたりしますが、やるだけやってからでないと、どのような方向性でも成功はしないと思います。あとは、パートナーでもスタッフでもよいので、信頼できる「参謀」を見つけることです。自分の思いを受け止めてくれるとともに、同じベクトルに向かって歩んでくれる、迷ったときは適切なアドバイスを送ってくれる人がそばにいると、百人力です。でも、そのためにはまず自分が信頼できる人間にならないといけませんね。「やった分だけ返ってくる」、「相手は自分の鏡」だと強く思います。開業してからの方が人間的にも技術的にも成長する機会が多くなりますので、開業は遅いよりも早い方が良い気がしました。

【プライベート】

■プライベートな時間はどのようにお過ごしですか。

家に帰れば、主婦業が待っています。時間やお金をやりくりしながら、与えられた環境で周りの人たちを幸せにすることでいえば、院長業も主婦業も同じ気がしています。これでは1日中仕事と思われるかもしれませんが、どちらも楽しいですよ。最近は有機野菜の宅配を楽しみに、料理のレパートリーを増やすようにしています。それから、寝る前の読書は小さい頃から大好きです。ここ数年はもっぱら「人生論」や「経営論」を読んでいます。仕事に繋がってしまいますが、読書をすると、1日を気持ち良く終えることができます。外食したらインテリアやスタッフの対応を、銀行に行ってはクレーム対応を、買い物に行けばセールの仕方をなど、結局当院に取り入れられることがないか探してしまっていますが、苦しいどころか、とても楽しいです。今のところ、夫婦共通の一番の趣味ですね(笑)。

【タイムスケジュール】

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