歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人 孝明会 箱崎ふ頭歯科 林 孝明(りん こうめい)理事長

箱崎ふ頭歯科 外観

福岡市東区箱崎ふ頭は箱崎地区の西側の海が埋め立てられてできたエリアである。地名となった箱崎ふ頭は博多港最大の埠頭として、1973年に竣工した。様々な港湾施設が集約され、工業団地や流通センターなども立ち並んでいる。
箱崎ふ頭歯科はその箱崎ふ頭1丁目に2006年に開設された歯科医院である。福岡市地下鉄箱崎線の箱崎九大前駅から徒歩15分の場所で、外来のほか、訪問診療も積極的に行っている。
今月は箱崎ふ頭歯科の林孝明院長にお話を伺った。

医療法人 孝明会 箱崎ふ頭歯科 理事長 林 孝明 先生

医療法人 孝明会 箱崎ふ頭歯科 林 孝明(りん こうめい)理事長

プロフィール

  • 1998年 九州歯科大学 卒業
  • 1998年 九州歯科大学附属病院麻酔科 勤務
  • 1999年 産業医科大学病院麻酔科 勤務
  • 1999年 小倉記念病院麻酔科 勤務
  • 2000年 産業歯科衛生協会 勤務
  • 2002年 藤政病院歯科 勤務
  • 2002年 美祢歯科医院 勤務
  • 2003年 さくら歯科 勤務
  • 2006年 箱崎ふ頭歯科 開設

開業に至るまで

歯科医師を目指したきっかけを教えてください。

実家は中華料理店を経営しているのですが、親戚に内科医師、歯科医師、看護師などの医療関係者が多く、父が資格の必要な仕事は有利だからと勧めてくれたのがきっかけです。私自身も料理店の仕事は合わないと感じていたので、中学生の頃から医療系の職業を目指していました。高校時代は応援団に入っていたので、10分ぐらい同じポーズのままでいることもできます(笑)。上下関係の厳しい部活動でしたから、忍耐強いですし、逆境にも強いです。受験に際しては私立は駄目だと言われたので、2浪して国公立に進学しました。

学生時代に学んだことはどんなことですか。

受験勉強からの反動なのか、下級生時代は勉強しませんでしたね。でも、解剖学などの専門的な勉強が始まってみると、歯科の面白さが分かるようになっていきました。私は手先が器用ではないので、入れ歯を作るのは難しかったですし、本当に私に合っている仕事なのかと苦しんだこともあります。実習の試験に落ちたこともありましたが、学べば学ぶほど歯科の存在意義を理解できましたし、6年生のときには歯学部に入って良かったと実感していました。

大学を卒業後に勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

歯科麻酔科で全身麻酔を学んだり、障害のある患者さんを診る経験などを幅広く積みたかったので、大学の教室に1年間、残りました。その後、産業医科大学と小倉記念病院に半年ずつ勤務し、医科の麻酔も学びました。脳神経外科の手術などを歯科が手助けすることもありますし、麻酔はリスキーなものではありますが、歯科医師としての役割を果たしていこうと思っていました。
現在は訪問歯科を行っていますが、訪問先で「この薬があるから、ここまで治療しておこう」、「主治医の先生とやり取りしよう」などといった全身の状態管理を考えることができています。当時、もし矯正や予防を専攻していたら、今、訪問歯科をすることはなかったかもしれません。障害者歯科にも手を広げていきたいのですが、今はそこまで関与できないですね。しかし、高齢の患者さんの中には障害をお持ちの方が少なくないので、若い時代に学んだ知識を活かせています。

その後、一般の歯科に転職されたのですね。

大学での研修を終えたあとで、健診のアルバイトをしてお金を貯め、中国に1年間、留学しました。中国では鍼灸と漢方を学びました。名前も「林(りん)」ですから、中国には縁がありますし、麻酔科の教授にも東洋医学を勉強したらと勧められていたのです。今も舌が痛い患者さんに漢方薬を出したり、鍼を打って治すことができたりするので、これも私の強みになっています。しかし、帰国後はやはり一般的な歯科診療に打ち込みたくなり、山口県の歯科医院に勤務し、入れ歯を中心に勉強させていただきました。

開業のきっかけについて、お聞かせください。

山口県の歯科医院でリストラに遭ってしまったのです。私のスキルが不十分だったこともありますが、患者さんが減ってきたという理由でした。それがきっかけで開業したのです。私としては勤務医も楽しかったですし、週に1回は大学で顔面神経麻痺の患者さんの鍼治療などもして充実していたのですが、転機だと思いましたね。この場所は以前、勤務したことがあった歯科医院でしたが、お安く買い取らせていただきました。

最初から訪問歯科専門で開業されたのですね。

それまでの経験を活かせるのが訪問歯科や障害者歯科だったのです。高齢社会が到来することは分かっていましたので、訪問歯科に力を入れていなければと思い、訪問先を開拓すべく、営業の電話をかけ続けていました。訪問歯科診療のスキルもポジションをはじめ、ほぼ全て独学です。一匹狼でしたね。一人だと求人も大変でしたし、悩みは次々に出てきました。最初は患者さんも少なかったですが、頑張っていたら増えると前向きに捉えていました。その点、今、私どもに勤務する歯科医師は恵まれていますよ(笑)。

訪問歯科の難しさはどんなところにありますか。

急患への対応ですね。その日か、次の日の朝には必ず対応する体制をとらないといけません。そのためには毎日、稼働することが大切です。外来の患者さんが少ないからという理由で、ある曜日だけ訪問歯科をするといった話をたまに聞きますが、それだと急患に対応しづらいので良くないです。

どんな診療方針をお持ちですか。

患者さん第一という言葉はあまり好きではありません。優先させなければいけない業務もありますが、患者さんの容態をきちんと見極めるようにしています。

経営理念

経営理念をお聞かせください。

経営理念や座右の銘についてはあまり意識していません。患者さん第一という言葉をあえて使うなら、患者さん第一を徹底するのは難しいです。しかし、なるべく対応することを心がけています。夜7時から9時の間の急患に嫌な顔をしたり、「今日はきついから、キャンセルの電話しておいて」という姿勢ではいけないでしょう。患者さんも減ってきていますから、そういった気分を戒めながら、患者さんを最後まで診ようとしないと続かない仕事だと思います。

増患対策

どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。

特に意識して取り組んではいません。紹介が多いですね。施設からインターネット経由で問い合わせが入ると、お伺いして、訪問歯科の説明や他院との違いは急患対応であることなどを説明しているぐらいです。まだ訪問歯科そのものの認知度が低いので、将来性があると見込んでいます。ただ、今の患者さんをきちんと診療してさしあげることが最も大切だと考えています。

スタッフ教育

スタッフ教育について、お聞かせください。

私どもは教育の機会は少ない方ではないでしょうか。1カ月に1回の勉強会をしている歯科医院をすごいと思っています(笑)。時間もお金もかけていますね。私どもは朝礼もしないですし、何かトラブルがあったら木曜日に集まる程度です。
入職後はしばらく付き添いますが、実践で学ばせたいので、すぐに独り立ちさせます。ある程度の患者さんを受け持って、一生懸命に仕事をしているスタッフを見ていると、任せられるのです。そこでトラブルがあれば、私が責任を取ろうと思っています。仮に仕事を任せた歯科医師が評判が悪くても、それも仕事を任せた私の責任です。
歯科衛生士にしても、ベテランがいますから、私は突き放していますね。分からないことは質問に来いと言っていますし、勉強会にも行かせています。

採用される際に気をつけていることはどんなことでしょう。

暗い人、責任感がない人、自分の都合ばかり話す人は良くないですね。私どもは最初の給与設定は厳しいです。でも「1年間、様子を見る」と伝えると、手を抜く人はいません。退職する人たちも「任せてもらって、良かった」、「仕事を認められて、嬉しかった」と言っていますよ。私自身はオンとオフを切り替えたいタイプですが、スタッフが「家でカルテを書きたい」と言えば、言う通りにさせていますし、そのぐらいの関わりを保っています。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

以前ほどのパワーはなくなったのですが、好奇心旺盛ではありますので、障害のある方々向けの事業所、子どものデイサービスなどを作ったところです。障害者歯科を展開することはできなかったのですが、そういう部門で障害のある方々と関わっていきたいですね。歯科は歯科で今のテリトリーを固めつつ、口腔ケアの質を充実させたいです。そのためには歯科衛生士を増やして、患者さんのご要望に応えていく必要があります。歯科医師である以上、物理的に無理な状況であっても、自分の休みを潰して対応すべきなのです。患者さんには時間の調整などでご迷惑をかけるかもしれませんが、ご依頼があれば断る必要はありません。外来の患者さんから「ほかの患者さんを優先してください」と言われることもありますし、信頼関係ができてきたと感じます。
何カ所の施設があるのかとよく尋ねられるのですが、私もよく分かっていません(笑)。しかし、忙しいという気持ちになったときは患者さんがいらっしゃらなかったときのことを思い出すようにしています。

開業に向けてのアドバイス

開業を考えている歯科医師にメッセージをお願いします。

開業時にお金をかけないことです。5,000万円や1億円をかけても、失敗したら大きなリスクを負います。建物が綺麗でも倒産することはあるのです。汚い内装でもいいと思っていれば、患者さんはいらっしゃいます。卒後1、2年ではスキルが身につかないので、じっくりスキルを上げていきましょう。
歯学部では経営学を学ぶ機会はありません。歯科経営の勉強会のみならず、法人会、異業種交流会、税理士や社会保険労務士などの勉強会、不動産経営や介護についての勉強会にも行ってみるべきです。介護側の悩みを聞けるチャンスですし、「訪問診療に来てください」と言われることもあります。手技も大切ですが、経営者としての勉強も大事です。私も貸借対照表の読み方や借入方法などを深く学んでおきたかったです。ただ、収益だけを追いかけていたら、患者さんは減ります。治療を優先させながら、月に1、2回の勉強会に参加しましょう。私は最近、幼児教室を展開している企業の方の話を聞いたのですが、とてもためになりました。

プライベート

プライベートな時間はどうお過ごしですか。

パワフルだとよく言われますが、海外旅行が好きで、これまで101カ国を訪れました(笑)。海外に行くと、患者さんを診ることはできませんから、日頃は仕事が凝縮されています。9月はタイに行き、10月は鳥取に5日間の出張をしました。年末年始は1週間、アフリカに行く予定です。スタッフがしっかりしてくれているので、行けるのです。職場ではシビアな顔をしていますが、オフは全く違うと言われていますね。でも経営者はそういうものでしょうし、成功者の話を聞きに行くのも好きです。
将来はタイに移住したいです。人が良く、食べ物が美味しく、物価が安くて、住みやすいです。日本の企業が多く入っていますから、日本語も通じますので、こんなにいい国はありませんよ。101カ国を旅した歯科医師は日本で私だけでしょうし、全てをエンジョイしていると思っています(笑)。

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