歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~
いしはた歯科クリニック 石幡 一樹 院長
埼玉県久喜市は古くから交通の要衝として栄え、現在も市内を東北自動車道、圏央道、JR宇都宮線、東武伊勢崎線、東武日光線などが通っている。久喜駅はJR宇都宮線と東武伊勢崎線の接続駅であり、JRでは上野東京ラインや湘南新宿ラインも停車する。
いしはた歯科クリニックは久喜駅から徒歩2分の場所に2012年に開業した歯科医院である。「患者さんが納得できる治療を」とのモットーのもと、東京医科歯科大学と連携した、質の高い歯科診療を行っている。
今月はいしはた歯科クリニックの石幡一樹院長にお話を伺った。
いしはた歯科クリニック 石幡 一樹 院長
プロフィール
1980年 東京都 生まれ
2005年 昭和大学 卒業
2011年 東京医科歯科大学大学院 修了
2011年 医)さくら富士会 中村歯科医院 非常勤 勤務
2011年 医)スマイル会 ふかさわ歯科 常勤 勤務
2012年 いしはた歯科クリニック 開設
開業に至るまで
歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。
父が歯科医師なのです。白衣を着て、母の治療をしている父の姿が眩しく、かっこ良く見え、医療系に進みたいと思っていました。子どもの頃、友達の家で遊んでいたら、その家のお母さんから「お父さんは何をしている人なの」と聞かれたことがあります。6人中5人がサラリーマンで、私の家だけ歯科医師だったのですが、そのお母さんから「すごいね」と言われたのです。そのお母さんの反応を見て、人からすごいと思われている職業なのだと子どもなりに判断したこともきっかけでしょうか。
学生時代に思い出に残っていることはありますか。
大学時代は勉強では苦労したことがありませんでした。私は賢いわけではないのですが、記憶力が良く、暗記が得意なのです。次の日の試験に苦労しないタイプですね(笑)。そのため、国家試験も苦労知らずでした。
一方で、私には美的なセンスが欠けていました。歯の形を石膏で作ったり、削ったり、平らにしたりなど、不器用さも相まって、頭の中にある形を再現することが難しかったのです。歯科医師に向いていないのかなと悩んだ時期もありました。
卒業後、勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。
中村歯科医院を選んだのは患者さんを診る能力を鍛えたかったからです、1日に30人から40人の患者さんを担当させていただきましたので、とりあえず手が動くようになりました。
ふかさわ歯科にも勤務されたのですね。
ふかさわ歯科は独特な歯科医院で、理事長からは「ふかさわ歯科の中に石幡歯科があると思って、仕事してくれ」と言われました。チェア2台、歯科衛生士、歯科助手、1日20人の患者さんを与えられ、医療資源や1日の時間をどう使って、患者さんを診るのかということを考える毎日でした。自分でコントロールできるのは楽しかったですね。
勤務先で学ばれたのはどういったことですか。
中村歯科医院では技術の初歩などを学びましたが、ふかさわ歯科では開業後のイメージを掴むことができました。特に歯科衛生士や歯科助手とのコミュニュケーションを基本としたチーム医療のあり方は勉強になりました。
開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。
勤務医時代に結婚したのですが、妻の父から久喜市に物件があるから開業しないかと勧められたのです。開業には5,000万円から6,000万円がかかるとされていますが、その費用を抑えられるのは大きなメリットでした。また、雇われる側よりも雇う側になった方が自分のコンセプトを貫けると思いましたね。
開業地をご自分で探されたのではないのですね。
義父が所有する建物での開業ですから、私自身は探していません。久喜市という場所に納得できたので、ここで開業しました。
開業にあたってはどんな苦労がありましたか。
人事や経営面など、全てが初めてでしたから、行き当たりばったりになってしまい、トラブルにも見舞われました。インターネット広告の勧誘に気安く乗り、印鑑を押したのですが、これが不要な投資になってしまったのです。院長としての責任感に乏しかったのでしょうね。高い授業料になりました。印鑑を押すとお金は戻ってこないことを痛感しましたので、今は慎重です。ただ、失敗は成功するためのステップです。世の中の成功している方たちが皆さん、おっしゃるように、失敗を失敗と考えず、そこから学ぼうと思っています。
開業にあたってのコンセプトなどをお聞かせください。
治療に関しては入れ歯と顎関節症の二本柱です。私は入れ歯も得意でしたが、顎関節症に関してはほかの歯科医院が使わない方法で治していたのです。また、勤務医時代に「親切な対応ですね」と患者さんから誉めていただいていましたので、接遇面にも自信がありました。
設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。
白を基調にした内装です。また、車椅子の方も通院しやすいように、歯科医院の入り口にスロープを設けました。足腰の不自由な方が安心して来院できる環境にしたかったので、そういった配慮を行っています
経営理念
経営理念をお聞かせください。
私は「痛みの少ない治療を提供する優しい歯科医師」、「患者さん目線の分かりやすい説明をする歯科医師」、「相談しやすい歯科医師」でありたいと思っています。そして、患者さんが歯を失わないように、「歯が痛くなってから治す」ではなく、「問題がなくても予防する」という考えを久喜市や近郊の皆様にお伝えするために、院内イベントや院外活動などの歯科の啓蒙活動にも積極的に取り組んでいます。皆様が一生美味しく、痛みなく、ご自分の歯でご飯を食べていただけるように、私どもでは歯を悪くしない噛み方も指導しています。
診療方針
診療方針をお聞かせください。
浅く広くという方針は時代に合わなくなってきており、全ての歯科治療が求められていますが、私は歯周病に力を入れています。日本の40歳以上の人は歯周病で歯を失う確率が圧倒的に高いのです。その治療をいかに歯を抜かずに行うのかという点を意識しています。開業して2、3年後に歯周病で分からないことがあり、JIADSで勉強を始めました。JIADSはアメリカの歯周病治療の方法を日本に取り入れていこうというもので、ここで勉強を始めてからは歯周外科が急にできるようになってきましたし、患者さんの歯周病をよく管理できるようになった実感があります。
また、私は無地の白衣ではなく、ポップなイラストの入ったユニフォームを着ています。これは歯科医院にありがちな怖いというイメージを少しでも軽減させるためのものです。
患者さんの層はいかがですか。
子どもさんから高齢の方まで万遍なく来院しています。私どもは「マタニティ歯科」も標榜していますので、妊婦の方の受診もあります。妊娠するとホルモンバランスの変化などで、歯肉炎や歯周病になりやすいのです。妊娠初期や後期は応急処置のみですが、中期の方を対象にそういった治療を行い、妊婦の方のお口の健康をサポートしています。
増患対策
どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。
以前はインターネットの業者にお金を払ってSEO対策をしていましたが、今はしていません。しかし、ブログを頻繁に書いています。それが増患対策になっているようですね。現在の1日の平均来院患者数は65人です。今年のゴールデンウィークにチェアを1台増設し、さらに1台増設するための配管工事を行う予定です。
スタッフ教育
スタッフ教育について、お聞かせください。
歯科医師は非常勤勤務ばかりですので、分からないケースがあれば、その都度、教えています。最近、常勤の歯科医師が入職したのですが、彼とは常に話をしています。彼が分からないことにはすぐに対応するようにしています。今は院内勉強会をしていないのですが、今後は行う方向で準備しているところです。院外のセミナーについては参加費用の一部を負担しています。
歯科衛生士、歯科助手への教育はいかがですか。
歯科衛生士、歯科助手ともにチーフスタッフがおり、信頼のおけるメンバーです。それぞれのチーフスタッフと頻繁にコミュニュケーションを取り、院内の状況や雰囲気を把握しています。場合によっては半年か1年に1回、個人面談を行い、普段は聞けない話を聞いています。歯科衛生士の研修会費用は私どもで負担しており、しっかり勉強できる環境を整えています。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
分院を出したいですね。それから訪問診療を始めたいです。日本は超高齢社会に突入しましたし、患者さんは高齢になるにつれ、複数の疾患を抱えるようになっています。介護の仕事をしている患者さんからも困っている高齢者が少なくないことを伺っています。今の日本では歯科の訪問診療が絶対に必要なのです。歯科医院で患者さんをお待ちするだけではなく、こちらから地域へ出て行って困っている患者さんを診てさしあげられればと思っています。
今後の展開
今後の展開について、お聞かせください。
分院を出したいですね。それから訪問診療を始めたいです。日本は超高齢社会に突入しましたし、患者さんは高齢になるにつれ、複数の疾患を抱えるようになっています。介護の仕事をしている患者さんからも困っている高齢者が少なくないことを伺っています。今の日本では歯科の訪問診療が絶対に必要なのです。歯科医院で患者さんをお待ちするだけではなく、こちらから地域へ出て行って困っている患者さんを診てさしあげられればと思っています。
開業に向けてのアドバイス
開業に向けてのアドバイスをお願いします。
ご自分の強みがないと、うまくいきません。優しく、丁寧な治療であったり、「患者様」や「○○様」といった様付けなどの接遇の良さであっても、患者さんはそれなりにいらっしゃるでしょうが、そういう歯科医師はこれから増えてきます。歯科医師はサービス業でもありますが、技術職でもあるのです。そのバランスが大事ですね。技術職としては「この治療だったら、ほかよりも強い」という特徴が必要です。ほかの歯科医院で「抜く」と言われた歯を残せるなどの強みがないと、開業するべきではないと思います。武器があれば、差別化できます。
プライベート
プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。
週に1回はジムで走っていますし、月に1回はセミナーに参加しています。でも、今しかできないのは子どもと遊ぶことですね。子どもが小さいときはあっという間に過ぎると先輩方からも言われていますし、私もそうやって親に遊んでもらったので、子どもと過ごす時間を大切にしています。今週末は家族でスキーに行って、雪遊びをする予定です。