歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する理事長から学ぶ~

医療法人社団 翠聖会 理事長 高井 智行

医療法人社団 翠聖会 外観

 医療法人社団翠聖会は東京都、埼玉県、千葉県、栃木県、群馬県など、関東圏に15医院を構える歯科医院グループである。
本院は国領歯科医院で、京王電鉄京王線の国領駅からすぐの場所にある。国領歯科医院では国領歯科医院は一般診療のみならず、専門的な歯科治療や美容診療にも取り組んでいる。東京医科歯科大学医学部、歯学部と連携し、常時3、4人の歯科医師に加え、矯正歯科や歯科口腔外科の歯科医師で構成されるチーム医療を行っている。
今月は医療法人社団翠聖会の高井智行理事長にお話を伺った。

医療法人社団 翠聖会 高井 智行 理事長

医療法人社団 翠聖会 理事長 高井 智行

プロフィール

理事長 高井 智行
1966年 神奈川県 生まれ
1993年 東京医科歯科大学 卒業
1997年 国領歯科医院 開設
2005年 医療法人社団翠聖会 開設

  • 【学会 他】
  • 日本保存歯科学会会員
  • 日本口腔インプラント学会会員
  • 歯科医療行政懇話会会員
  • 歯科医療情報推進機構会員
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開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。

 子どもの頃から漠然とですが、手に職をつけようと思っていたのです。親からは「何でもいいから、とにかく一番になれ」と言われていました。小学生時代は問題児で、よく怒られていました。勉強は好きだったものの、授業のペースを乱してしまうので、小学校3、4年生ぐらいまでは、私の席は先生の机の横の特別席だったのです(笑)。父の事業の失敗もあり、実家は裕福ではなく、家に電話がなかったのです。連絡網が回ってこないため、大雨の日に1時間かけて、2人の弟を連れて登校したら、休校だったということもありました。そういった辛い経験から資格のある仕事に憧れたのでしょうね。
中学生のときに歯科医院に治療に行き、歯科医師のすごさを感じたのが直接のきっかけです。高校生のときには歯学部を目指していました。ところが、親族にも歯科医師はいませんし、学費の心配もありました。そのため、横須賀市の実家から通えて、学費の安いところとなると東京医科歯科大学しかなく、2浪して合格しました。今でも大学入試の夢でうなされることがありますよ(笑)。しかし、ハングリーに育ったことは親に感謝しています。

勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

 当時の東京医科歯科大学では95%の学生が大学院に進み、研究職に就いていましたが、私はお金を稼ぐ必要があったので、大学卒業後はすぐに働くことにしました。

勤務先で学ばれたのはどういったことですか。

 「丁稚」のように厳しく教えられ、技術を身につけました。いずれは開業したいと思っていたので、勤務医時代にしっかり学ぼうと考えていました。

開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。

 働いていた歯科医院の院長先生が「田舎に帰るから、歯科医院を譲りたい」とおっしゃったことがきっかけです。

開業にあたってはどんな苦労がありましたか。

 金銭面です。500万円ほど必要だったのですが、貯金が10万円しかなく、500万円を借りるために企画書を書き、近くの信用金庫に毎日通ったのです。門前払いをされても、1カ月ほど通っていると、支店長さんが話を聞いてくれ、500万円を貸してくれることになりました。今なら1カ月も通うことはできないですが、当時は世間知らずだったのか、「今日は無理です」と言われても恨むことなく、また明日行こうと思っていました。
その信用金庫はバブル崩壊でほかの金融機関に併合されたのですが、最後の日に担当者になぜ融資をしてくれたのかを聞いたら、「先生の目が真剣だったから、絶対にうまくいくと思いました」と言われ、とても嬉しかったですね。

開業にあたってのコンセプトなどをお聞かせください。

 地域の患者さんの口腔環境を守るために、常に新しいことにチャレンジしようということです。そのため、今ある治療技術や環境に満足せずに、最新の医療技術の習得、治療環境、スタッフ教育にも力を入れ、スタッフ全員が成長、活躍できる場を提供しています。地域の患者さん一人一人が、安心、信頼して通っていただけるような歯科医院作りに、これからもグループ一丸となって取り組んでいきます。

設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。

 譲渡された歯科医院でしたから、古くて、綺麗でもなくて、エアコンも効かず、天井から水漏れする状況でした(笑)。それを業者さんと打ち合わせして、新しい歯科医院にしました。以前は歯科医院の事務所にもしていたのですが、このほど隣のテナントに空きが出たので、事務所はそちらに移しました。開院してから21年も経ち、患者さんも増えてきました。増床をしたいので、リニューアルを考えています。

経営理念

経営理念をお聞かせください。

 働いているスタッフが日々を楽しく過ごせるような歯科医院や法人を作ることです。最先端の治療や患者さんの満足度の向上はもちろん重要ですが、「仕事の時間」が「一番楽しい時間」であってほしいと思っています。貴重な人生の数年間、しかも昼間の大切な時間を過ごす場所は楽しい場所でなければもったいないです。楽しい職場であれば、その楽しい雰囲気は患者さんに必ず伝わります。

診療方針

診療方針をお聞かせください。

 経営者でもありますが、日々の診療を何よりも大切にしています。今も週5日は診療をしていますし、これからも続けていきたいです。一人一人の患者さんに真剣に向き合うことで、嫌なことも忘れられます(笑)。24年前の古い建物で診ていた患者さんが今も来院してくださったり、ずっと前に入れた歯が機能していることは嬉しいものです。

患者さんの層はいかがですか。

 分院にもよりますが、基本は小児から高齢者まで幅広く来院されています。本院は自費診療が多いので、遠方の患者さんも多く来られています。

自費と保険の割合について、お聞かせください。

 分院によって違いますね。自費をメインにしている歯科医院もありますし、保険をメインしている歯科医院もあります。たとえば、本院は自費6割、保険4割ですが、中野坂上院は保険7割、自費3割です。そのあたりのバランスは各分院長に任せています。

増患対策

どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。

 ホームページぐらいですね。あとは口コミです。良い治療をしたら、患者さんは自然に来ます。

スタッフ教育

歯科医師の教育について、お聞かせください。

 若い歯科医師には「歯科医師の仕事は自分の命を削って、患者さんの歯を削るものだ。削った歯はもとに戻らないので真剣勝負なのだ」と教えています。アメリカでの歯科医師は子どもたちの憧れの職業となっています。ステータスもありますし、尊敬もされているのです。一方で、日本には歯科医師が10万人いて、歯科医院数はコンビニエンスストアの数を上回っています。一部の地域ではワーキングプアや斜陽産業とまで言われるようになってきましたが、口腔内の細菌が心臓病などの疾患の原因になっていることが分かるなど、歯科治療の重要性が再認識されるようになったので、日本でもアメリカのように子どもたちの憧れの職業になってほしいですし、私も残りの歯科医師人生を教育に力を注ぎたいと考えています。
歯科医師のキャリアステッププランの例としては、就職してから3カ月が研修期間です。院内のことを知り、先輩歯科医師やスタッフと親交を深めていく時期です。少人数ですが、先輩歯科医師の指導のもとで、診療にも携わります。
3カ月から1年は先輩のアシスタント診療が中心です。徐々に初診を担当していきます。
しっかりと基礎を学ぶ時期です。
1年から2年は担当の患者さんも増えてくる時期です。余裕が出てきたら研修会などに参加するのも大切です。院長に相談してみてください。
2年から3年で一人前の歯科医師です。しかし、基本を忘れず、日々勉強です。常に前進を心がけてください。診療だけでなく、経営面、スタッフ教育などにも参加していきます。
私どもでは福利厚生の面も考慮し、地方出身者でも安心して上京できるよう、社宅や引っ越し、家賃の補助などのサポートを行っています。その結果、北海道、沖縄、青森などの遠方からの就職実績も多数あります。初めての一人暮らしを快適に過ごし、仕事に集中できる環境を整えています。

歯科衛生士、歯科助手への教育はいかがですか。

 歯科衛生士や歯科助手の力でさらに楽しい法人にしてもらいたいと考えています。私どもは歯科の医療法人としては比較的、規模が大きいのですが、たった一人の新人の提案で大きく方針転換することも珍しくありません。日々の診療だけでなく、法人の運営にも、スタッフが主役になったつもりで関わってもらえるようにしています。
セミナーなどで新しいことを歯科医院に取り入れること、それがそれぞれの成長と歯科医院の成長につながるものでしたら、参加費を積極的に補助しています。
また、成績優秀な助手には歯科衛生士になるための奨学金制度もあります。
産休・育休制度がありますので、結婚や出産後も安心して働けます。復帰後に提携保育所に子どもを預け、仕事をしているスタッフもいます。また、シングルマザーへの支援として、子ども手当の支給もしています。様々なライフスタイルに合わせたサポートがありますので、集中して仕事に打ち込むことができます。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

 異業種とのコラボレーションを進め、これまで歯科医院に来なかった方々にも目を向けていただきたいと考えています。世界初の新技術であるマイクロニードルを用いたヒアルロン酸シートもその一つです。この商品は安心、かつ安全にヒアルロン酸を使用しており、痛みもありません。ヒアルロン酸注入は注射が主流で、痛くて、高いイメージがありましたが、マイクロニードルだと1シートに1300本ほどの細かな針があり、それが直接、肌に浸透するので、ヒアルロン酸を角質の奥まで届けることができます。歯科のホワイトニングと同時に行えますので、短時間で目元や口元が美しく変わります。マイクロニードルが将来的にはインフルエンザや各種ワクチンの摂取、糖尿病の患者さんのインシュリン注射などの代替となるよう、医学的な応用を目指していきたいですね。現在、大学と連携して、研究に取り組んでいるところです。ミクロの針には無限の可能性を秘められているのです。

開業に向けてのアドバイス

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

 私は人生の節目でキーになる人に出会えたことが幸運でした。私のポリシーは絶対に諦めないこと、へこたれないことです。失うものは何もなかったので、失敗してもまた一から頑張ろうと、どんなことが起きても前向きに進んできました。一度きりの人生なので、若い先生方にはハングリーに、そして自分で自分を縛らずにやりたいことに挑戦していただきたいですね。

プライベート

プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。

 プライベートの時間も仕事をする機会がほとんどですが、それでも余暇があればスタッフや分院長たちと食事会をすることが多いです。食事をしながら、皆の悩みを聞いたり、アドバイスをしたりしています。翠聖会の一番の特徴はスタッフ間が仲良しというところですね。悩みなどを相談しやすい環境作りを心がけています。
翠聖会はスタッフ同士のコミュニケーションを大切にしたアットホームな雰囲気の職場です。オンとオフの切り替えもしっかり行い、仕事のときはお互いを尊敬し合い、遊びのときは立場に関係なく、皆で思いっきり楽しみます。食事会、社員旅行、法人全体で行う忘年会など、イベントも豊富です。スタッフは多いですが、誕生日会を毎月行っている分院もあります。