歯科経営者に聴く - 医療法人社団 松下会 すこやか歯科クリニック 山田 崇弘 院長(後編)

歯科経営者に聴く(後編)

~第一線で活躍する院長・理事長から学ぶ~

すこやか歯科クリニック 受付

 熊本市中央区本山は熊本の陸の玄関口であるJR熊本駅から徒歩10分ほどの場所に広がる住宅街であり、桜町バスターミナルからバスでのアクセスも容易なエリアである。
 すこやか歯科クリニックは熊本駅に向かう産業道路に面したメディカルビルの一角に入居する歯科医院で、丁寧なカウンセリングとインフォームドコンセントを重視し、一般歯科から口腔外科、小児歯科、矯正歯科、訪問歯科まで幅広い診療内容をカバーしている。

 今月は先月に引き続き、すこやか歯科クリニックの山田崇弘院長にお話を伺った。

山田 崇弘 院長

すこやか歯科クリニック 山田 崇弘 院長

【プロフィール】

  • 1984年佐賀県 生まれ
  •  九州歯科大学 卒業
  •  小倉南歯科医院 臨床研修
  •  その後、福岡県内、熊本県内の歯科医院で一般歯科、訪問歯科に従事
  • 2021年すこやか歯科クリニック 開業

【理念・治療スタイル】

経営理念や診療方針を教えてください。

診察室

「全身の健康はお口の健康から」「ライフステージに応じた歯科医療を根拠に基づき実践することで、生涯にわたり患者さんの全身の健康に寄与し、健康寿命を伸ばす」ということです。それぞれの意味は以下のようになります。「ライフステージに応じた歯科医療」というのはゆりかごから墓場まで、つまり小児から高齢者までライフステージに応じてしっかり歯科医療を行うことです。「根拠に基づき」というのは常にエビデンスに基づいて正しいことをしていこうというスタンスでいることです。口腔の健康はもちろんのこと、最終的には全身の健康にも寄与して、健康寿命を伸ばすことを目指しています。長生きしたときに最後の10年間も元気に生きられるように、健康で人間らしい生活が少しでも長く続けられるよう、QOLが高くなる期間を延ばしていけるお手伝いをしていきたいと考えています。

それから「地域包括ケアを念頭に置いた歯科医療を実践する」ことです。医科歯科介護連携が大事だと思っていますので、介護施設や病院、医院とシームレスに情報を連携しながら一人の患者さんが地域で安心して医療が受けられるような体制づくりをできるよう、歯科の私たちもそこに参加していくといった意識を強く持っています。

また「誠実な医療」を大切にしています。どの歯科の先生でも家族に治療する場には嘘はないでしょう。機材に関しても、できる限り先進的な設備環境の中、治療を行いたいと考えるはずです。そのため、患者さんに見えないものだからと思わず、コストをかけてでも良いものを提供していくことを徹底しています。

そして、インフォームドコンセントにも力を入れています。患者さんのお話をしっかり聞くこと、痛みや辛さに対して共感したり、気持ちに寄り添うことは必ずするようにスタッフにもいつも伝えています。そうやっていくことで、患者さんに信頼してもらえる歯科医院になっていけると信じています。

ほかの歯科医院と差別化するために工夫している点をお聞かせください。

地域包括ケアを意識して、訪問歯科を外来と同じぐらい力を入れています。私の専門領域である摂食嚥下リハビリテーションを勉強している先生は地域でも少ないので、口腔機能低下症へのアプローチや嚥下などに関する強みはあると思います。施設側も歯の治療だけでなく、食事支援もしっかりできる歯科医師を望んでいらっしゃることが多く、訪問先の獲得にも繋がっていますし、お蔭様でメンテナンス率も向上しています。また、エンドやインプラント、矯正などの専門医と連携することで、より幅広い患者さんを受け入れることが可能となっています。

経営面としてはスタッフ全員の幸せを追求するために、スタッフを多めに雇っています。誰かが休んだら体調が悪くても出勤しなければいけないという雰囲気や子どもの行事に参加できないといったことをなくしていきたいので、多めに雇うことで解消し、スタッフにはワーク・ライフ・バランスを充実してもらっています。もちろん余ったスタッフも歯科医院のために何かしらの仕事はありますので、決して怠けているわけではないです。スタッフにはいつも伝えていますが、私どもでは「幸福度重視型」であることを意識しています。プライベートの幸福感はもちろんですが、仕事のやりがいをしっかり引き出せるように面談を定期的にし、コミュニケーションを取っています。スタッフが安心して働けるように、臨床心理士の先生に来ていただくなど、専門家の力も借りながらストレスケアにも努めています。スタッフが幸せでないとそれが患者さんにも伝わりますし、診療パフォーマンスも下がります。安心して勉強や研修ができて、患者さんにもしっかり向き合えることで仕事のやりがいになり、なおかつプライベートも充実することでバランスが取れ、幸せを感じてもらえます。

【スタッフ採用・教育】

スタッフを採用するとき、どのような基準を重視していますか。

誠実で、優しい人ということが基準ですね。誠実さはとても大切にしています。

スタッフの育成や教育はどのように行っていますか。

スタッフによって習ってきたことやレベルが違うので、まずはしっかりヒアリングします。人事考課制度も絶対評価で行っているので、歯科衛生士ならどういう歯科衛生士になりたいのかという目標設定を1年に1回考えてもらい、そのために何が必要なのかをそれぞれ考えてもらうようにしています。こちらが指示するのではなく、自主性をいかに引き出せるかということをポイントにしています。自主的に始めたことはやはり成長スピードも速いですね。

スタッフとのコミュニケーションで、最も大切にしているのはどういうことでしょうか。

雇用者から見ると、経営者には話しづらかったりすると思うので、なるべく小言は言わないようにしています(笑)。困ったときにいつでも相談してもらえるように、軽い声がけなどをすることも心がけていますね。

スタッフとの集合写真

【今後の展開】

今後、歯科業界はどのように変化していくと想像されますか。

今後はますます超高齢社会になりますので、それに対応できる歯科医院が求められるでしょう。そこに関して、私どもは他院よりもぬかりなく準備しているので、対応していけるはずです。歯科医療は治療から予防、予防から審美や矯正と、時代によってフォーカスされるものが移り変わっており、現在は口腔機能がフォーカスされています。人の終末期の楽しみは「食べること」です。これはアンケート調査でもはっきり分かっていることなので、勤務医の先生たちにも摂食嚥下を学んでほしいとよく伝えています。終末期の口腔状態を考えたうえで「食べること」にフォーカスしないと治療計画があやふやになるからです。インプラントで売上が上がったという勉強会はよくありますが、インプラントを入れた患者さんの30年後はどうなった、高齢期に介護施設に入ってからどうなったという勉強会は少なく、そこを見せてもらえる機会はあまりありません。そこで、そういうゴールを見据えた歯科医療をしっかり学べる勉強会を自分で立ち上げ、開催しているところです。

また、今後は業務の効率化を高めるためにAIの利用が普及するでしょう。色々なことが便利になり、機械もオートメーション化していますが、今後はより活用しないと他院との競争についていけなくなります。私どもでもAIの活用については専門家の意見を聞きながら取り入れております。この機械を使えば、より技術を磨けるというような自身の成長についてもAIにサポートしてもらえる時代になるのではないでしょうか。ただAIに頼ってばかりなのも違和感があります。人間に何を求められてくるのかをより考えていかなくてはいけません。人間にしかできない発想をしたり、コミュニケーション能力がある人材が重宝されるでしょうし、AIやロボットには出せない温かみを私も大切にしていきたいと思っています。

転職や開業を考えておられる先生方へアドバイスをお願いします。

まずはどういうキャリアを築いていきたいのかを明確にすることをお勧めします。開業したいのか、勤務医のままでいたいのか、専門性を高めてスペシャリストになりたいのかなどを明確にし、自分の強みを見つけ、自分のコンセプトや目標を作ったうえで動いていくほうが充実した歯科医師人生を送れるのではないでしょうか。

私自身は超高齢社会への対応ができるよう、これまでは自分の目指すコンセプトのためにお金と時間をかけてがむしゃらに頑張ってきました。それが今、少しずつ実になってきていると感じています。先生方もやる気があるなら、何でもがむしゃらに挑戦してみてほしいです。私どもの勤務医も開業したいという気持ちがあるなら、もちろん応援しますし、ほかに勉強したいことがあるなら全力でサポートします。地域医療に貢献し、多くの患者さんを診たいのはやまやまですが、やはり私たちにできる範囲は限られています。そこで、私どもから良い歯科医師を輩出し、私のコンセプトなどを受け継いでくれた先生方が様々な地域で開業してくれれば、より多くの患者さんを幸せにできるのではないかと思っています。ご興味のある方は是非いらしてください。

休日やオフの時間に行っているリフレッシュ方法や趣味を教えてください。

休日は家族と一緒に自然があるところに行くことが多いですね。自然が多いところで遊んだり、美味しいものを食べたりして、家族との触れ合いを大切にしています。趣味はピアノです。幼少期から習っていて、今もコンサートに出るなど、二足のわらじを履いている状況です(笑)。アマチュア演奏家としても少しずつ幅を広げていきたいので、チャリティコンサートにも出演することになっています。

学生時代にはラグビーをしていたので、運動も好きで、筋トレも頑張っています。今度はボディービルの大会にも出てみたいですね(笑)。最近はボディメイクも楽しく、身体づくりをするとそれがピアノにも反映されているようで、芯のある音を出せている気がしています。そういったことが私のリフレッシュ方法ですね。私自身がプライベートを充実させることで、スタッフにもその雰囲気が伝わったらいいなと思っています。

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