歯科経営者に聴く - 医療法人 みらいの一番星 宮本 貴文 院長(後編)

歯科経営者に聴く(後編)

~第一線で活躍する院長・理事長から学ぶ~

医療法人 みらいの一番星

 愛知県あま市・甚目寺は、名古屋市へのアクセスに優れた落ち着いた住宅地で、子育て世代から高齢者まで多くの人が暮らす地域である。そんな地に根ざし、地域医療を支えているのが「星の森デンタル」。2023年のリニューアル移転を機に、最新設備とチーム体制を整え、より多様なニーズに対応している。
 今月は先月に引き続き、歯科口腔外科出身の宮本貴文院長に、診療の特徴やスタッフへの想いについてお話を伺った。

宮本 貴文 院長

医療法人 みらいの一番星 宮本 貴文 院長

【プロフィール】

  • 1983年愛知県 生まれ
  • 2007年愛知学院大学歯学部 卒業(その他略歴:https://hoshinomori.net/staff/
  • 2017年星の森デンタル 開業
  • 2020年現在の星の森ファミリー歯科をM&Aで譲受
  • 2024年株式会社MECEプロデュース社外取締役 就任
    https://mece-produce.info/mece-profile
  • 2025年デンタルCFOとして商標登録

【スタッフ採用・教育】

最初にスタッフを採用する際、どのような基準を重視しましたか?

当初から事業規模を拡大していくことを見据えていたため、「将来的に幹部候補として活躍できるかどうか」を重視して採用を行っていました。新卒で入社してから現在では幹部として立派に活躍しているスタッフもいます。単なる即戦力ではなく、事業成長の計画に沿った人材を選ぶことに注力してきました。

スタッフの育成・教育はどのように行っていますか?

現在の教育体制は、“経営本部の人事担当”と“臨床本部の教育担当”が連携して、カリキュラムに沿った内容で実施しています。基本的にはOff-JT(座学研修)からスタートし、主にOJT(実地研修)で教育を進めています。また、フィードバック体制もしっかり整えて段階的にスキルを高められる仕組みです。

その他にも当院オリジナルのキャリアコースを複数作成しており、多様性のある組織となっています。

今では組織もある程度の規模に成長したため、「スキルより信頼性の高い人を採用していこう」という方針にシフトしています。実は人事に関して、もともと私自身あまり得意ではなく、信頼できる担当者に任せきりです。一流の経営者が「自分より優秀な人を採用する」とよく言いますが、私もそれを実践するよう心がけています。人事だけではなく、各分野を得意とするメンバーに信頼して任せています。

そのため、私が口を出そうとすると「理事長は参加しなくても大丈夫です。」と冗談交じりに止められることもあります(笑)。それだけ優秀な仲間がいることに感謝しています。

スタッフとのコミュニケーションで最も大切にしていることは何ですか?

これについては、過去に経営本部から厳しく注意されたことがあるんです(笑)。どうしても話しやすいスタッフや親しい人に偏って接してしまっていたのですが、「経営者である以上、全スタッフと公平にコミュニケーションを取らなければならない」と指摘されました。

今では、誰かと3分話したら他のスタッフとも同じように話すことを意識し、誰かを特別扱いしないよう心がけています。また、プライベートな話題に踏み込みすぎないようにも注意しています。時代的にも、セクハラ・パワハラと捉えられる可能性がありますからね(笑)。

とはいえ業務の話だけだと場が固くなりすぎてしまうので、できるだけ笑いも交えながらリラックスした雰囲気をつくるよう意識しています。

また、私は理事長という立場ではありますが、臨床本部の中では“イチ歯科医師”として動いていますので臨床本部長(歯科衛生士)の指示には素直に従っています。

そのおかげで、スタッフも私に対して「理事長はこれやってください」「理事長にはこう動いてほしいです」と気軽に意見を言いやすい環境になっていると思います。経営本部から注意を受けることもありますが、常に納得できる視点を提供してくれるので感謝しています。第三者的な視点があることで、ワンマン経営に陥らないのが当グループの強みです。

さらに、付き合いの長いスタッフと話していると、私の口癖や考え方が自然と伝わっているなと感じる場面があります。これは良い影響だけでなく、悪い面も伝わってしまう可能性があると気づきました。たとえば、物の扱いが雑であればスタッフも同じように雑になるでしょうし、患者さんへの対応が良くなければその雰囲気も伝播するかもしれません。だからこそ、自分の行動や言動には常に気をつけなければならないと学びました。

スタッフが働きやすい環境づくりのために意識していることはありますか?

「適材適所」を何よりも意識しています。当法人では経営本部と臨床本部を明確に分けており、それぞれが得意分野を最大限に活かせる体制を整えています。

もし私が今も人事を担当していたら、きっと満足する成果も出せず精神的に疲れ果てていたかもしれません。そして今のような規模のグループを作り上げることは難しかったでしょう。だからこそ、皆がそれぞれの力を発揮できる場を提供することが、経営者としての大切な役割だと感じています。

【今後の展開】

今後の経営の展開について伺わせてください。(取り入れたいことなど)

現在、関連事業による多角化経営を進めています。直近の取り組みとしては「保育所の設立」を計画中です。当院は女性スタッフが多く在籍しているため、産休・育休後も安心して復職できるよう子どもを預けられる環境を整備する必要があると考えています。もちろん事業として採算が取れるよう、現在さまざまな準備を進めているところです。

実際に、ちょうど今は夏休み期間中で、スタッフの子どもたちだけで10人ほど託児スペースに集まっている状況です…(笑)。この様子を見て、さらにこれからも増えていくことを考えると「さすがに専用の環境が必要だな」と強く感じました。

また、今後のさらなる事業拡大に備えた「システムの構築」も進行中です。効率的で再現性のある運営体制を整えることで、組織としての安定と成長を両立させたいと考えています。

今後、歯科業界はどのように変化していくとお考えですか?

今後、歯科業界は大きな構造変化を迎えると思います。国の方針により歯科医師の数は減少していく一方で、歯科衛生士を中心としたコ・デンタルスタッフが診療の中核を担うようになると予想しています。

また、歯科技工士不足の影響もあり、デジタル技工の導入はさらに加速するでしょう。人手不足を背景に、業界全体のIT化も進んでいくと思います。こうした変化に適応できない医院は、ダーウィンの進化論のように“淘汰”されてしまう時代になるかもしれません。

転職・開業を考えている先生方へアドバイスをお願いします。

勤務医という立場は、求人の需要が安定しているだけでなく労働基準法によってしっかりと守られているという点で非常に恵まれています。しかし、開業後もそのままの感覚で経営に臨むと失敗する原因になりえます。

実際に開業すると勤務医時代には想像もできなかったような苦労やプレッシャーがあることでしょう。だからこそ、「開業しなければならない理由」が明確でない方には、無理に独立をお勧めできません。経営がうまくいかなくなった時に「それでも開業しなければならなかった理由」がないと、気持ち的にも課題を乗り越えることは難しいでしょう。そして自分だけでなく、スタッフやその家族の生活にも影響が及んでしまっては目も当てられません。

「従業員の人生を背負う覚悟があるかどうか」。それが開業に向いているかどうかの判断基準だと思います。経営者としての責任を真剣に考えていただきたいです。スタッフを不幸にしない――それが、経営者としての最低限の責任です。

休日やオフの時間の過ごし方、リフレッシュ方法を教えてください。

以前は週7日間すべて診療していたのですが、経営本部から「さすがに1日は休んでください」と言われて今は週1日しっかり休むようにしています(笑)。

とはいえ、休みの日も経営に関する勉強をしたり、他に経営している会社の業務に取り組んだり結局は何かしら仕事に関わっています。私の周りの経営者の方々も、仕事を遊びの延長と捉えてプライベートの境目がないような方は多いですね。もちろん、しっかり休むことやアクティブに過ごしてリフレッシュすることも素晴らしいと思います。

ただ、私にとっては「仕事=遊び」のような感覚なので、今のライフスタイルがとても楽しく自分に合っていると感じています。

記事の前編はこちら