歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

ニコニコ歯科のもとクリニック 野本健作 院長

今月ご紹介するニコニコ歯科のもとクリニックは大阪府堺市にある。
最寄り駅は泉北高速鉄道の光明池駅で、その駅ビルである「光明池一番街」のテナントとして、2005年12月に開業した。開業時はチェア5台であったが、開業後わずか1年4ヶ月で8台まで増設となるなど、右肩上がりの増患を続ける。野本健作院長は「ここまでやってこられたのはスタッフの力が大きい。これからは患者さんの量を目指すのではなく、治療の質を向上させたい」と語る。
野本院長は勤務医時代に分院長の経験があり、それが開業後に非常に役立ったという。
開業までに学んだことが開業後にどのように支えになったのか、患者さんとの信頼関係をどのように築いていったのかなどについて、伺ってきた。

勤務医時代

野本健作院長は1974年に兵庫県相生市で生まれ、1998年に広島大学歯学部を卒業した。歯科医師を目指した経緯について伺った。

ニコニコ歯科のもとクリニック「サラリーマンになると、どうしても人と同じような人生になるような気がしたんです。人と違ったことをしたかったので、それなら医学部か歯学部かと考えました。ただ医学部を出て医師となると、勤務医の期間が長くなります。私の性格には早い段階で独立して開業を目指せる歯科医の方が向いているのかなあと思い、歯学部を志しました。」

広島大学卒業後は、堺市の湯川歯科医院に入職し、3年勤務する。湯川歯科医院の大嶋俊一元院長は広島大学の先輩であり、紹介を受けたことがきっかけだった。湯川歯科医院では大学で教えられることとは異なる、臨床の現場で修行の日々だったという。

「もともとインプラントなど、最先端の技術を学びたいと思っていたところ、大学の先輩から「堺にすごい先生がいる」と教えて頂き、湯川歯科医院に入りました。勉強になったことを挙げるとキリがないですね。大嶋先生には毎日のように叱られ、技術を身につけていくことの大変さを思い知らされました。治療というものが、患者さんの要求一つで簡単にも、難しくもなるということが理解できるようになりました。」

2001年に医療法人佳晴会に移る。佳晴会は堺市を中心に大阪府内で5つの歯科医院を経営するグループであり、訪問診療にも早い時期から積極的に取り組んでいることでも知られている。野本院長は、分院の中の一つである高石市の綾園歯科に分院長として着任した。

「この転職は開業医に近づくための準備のためでもありました。そもそも分院長や勤務医を募集する歯科医院というのは患者さんに支持されているという前提があるわけですから、そういった場所で勤務すれば、知らず知らずの間に経営面の勉強になります。しかしながら、綾園歯科は当時は患者さんが少なくて、1日5、6人程度だったんですよ。」

そこで野本院長はインプラントなどの高い技術力を生かし、患者さんのニーズに的確に応えていける体制を取ったところ、徐々に増患につながり始めた。佳晴会は独立採算制をとっており、綾園歯科は辛い状況であったが、スタッフも含めた診療の仕組みを整備し直し、1年ごとに10人ずつの増患を目指した。

「最終的には1日に60人ぐらいの外来患者数になりました。日曜診療を行ったことも大きかったですね。忙しい患者さんにとっては歯科への通院は負担になりますから、喜んで頂けましたよ。また訪問診療にも力を入れました。」

開業準備

ニコニコ歯科のもとクリニック 2004年頃、野本院長は開業を見据え、開業地を探し始めた。そこで選んだ現在地は泉北高速鉄道の光明池駅の駅ビルである光明池一番街の1階、角地であった。泉北高速鉄道はなんばと泉北ニュータウンを結ぶ鉄道で、なんばから光明池駅までは30分ほどである。また光明池駅は堺市南部や和泉市などの各方面へ向かうバスのターミナルともなっている。
「人が多いなあというのが第一印象でした。人口が増えている地域ですし、可能性を感じましたね。歯科治療は患者さんが何回となく通院しなくてはいけませんので、患者さんが通いやすいためには立地条件は譲れないものでした。ここはレンタルビデオショップの跡地だったのですが、コンビニエンスストアやファストフード店と競合して、入居が決まりました。」

そして2005年12月に開業に漕ぎつける。開業にあたっては新聞に折り込みチラシを入れ、駅や歯科医院の前に看板を出すなどの対策も行った結果、初日には35人の患者さんを迎えた。

「歯科医院名には、地域の皆さんの心に植えつくような一言を入れたいと思っていたので、「ニコニコ」を思いつきました。周囲の反応は賛否両論といった感じでしたね。小児歯科専門と誤解されることもあります(笑)。チェアは当初5台でしたが、開業後半年で8台となりました。」

保険診療が9割

ニコニコ歯科のもとクリニックでも、湯川歯科、綾園歯科で行っていた夜間10時までの診療を継続している。それが増患につながっていることは論を待たないだろう。そして驚くべきは9:1という、自費率の低さである。昨今、自費率の向上に傾注する歯科医院が多い中、保険診療で9割の売上を確保するには、どのような経営努力があるのか。

「自費率を上げようとは考えたことがありません。売上を伸ばすために、患者さんに高いものを勧めるのはよくないでしょう。本当に良いものを適正な価格で提供するのが本来の姿であり、安易な発想ではいずれ行き詰ってしまうのではないでしょうか。」

野本院長は「本当に良いもの」を提供するには、歯科医師の十分な技術が必要であると考えている。歯科医師になって3年目の頃はありとあらゆるセミナーに参加して、技術の習得に努めてきたそうだ。

「できないことができるようになるのは喜びでしたし、自分に投資するからには結果を出さないといけませんからね。歯科医師の一番やるべきことは技術の習得です。技術を説明する話術も大切ですが、それはあくまでも技術の補足であり、技術に先行するものではないと思っています。」

予防歯科

ニコニコ歯科のもとクリニック ニコニコ歯科のもとクリニックでは、予防歯科を充実させている。そこでのコンセプトが「歯に対する患者さんの考え方を変えていく」というものだ。その中でも特に子どもの予防活動に力を入れる。
「歯科治療を突き詰めていけば、結局、予防が一番大切だと思うんです。日常の診療で「なぜそこまで放っておいたの?」と思うことがよくあります。それに対して大人は「忙しい」とか「時間がない」などと言い訳をするのですが、これを考えると子どものうちから歯の大切さを教育し、習慣を身につけてもらうことに意義があると感じるようになりました。このあたりは子どもさんが多いので、もともとニーズがあり、このところさらに増加傾向にあります。歯への健康意識が高まってきたんでしょうね。歯科衛生士は4人いますが、何人いてもいいですよ(笑)。」

予防歯科では歯科衛生士の役割は大きい。最近では歯科衛生士のコミュニケーション能力の向上やホスピタリティーの重要性を謳うセミナーなども頻繁に開催されている。

「私どもでは特にセミナーへの参加を積極的に促すことはしていません。私が気付いたことがあれば、その都度指導しています。確かに、最近の歯科衛生士の中には患者さんとのコミュニケーションが苦手な人もいます。でも、苦手だからといって、尻込みするのではなく、果敢に克服してもらえるような指導をしないといけないのではないでしょうか。」

訪問診療

泉北ニュータウンは現在のところ、ファミリー層の居住が多いが、今後は高齢化が訪れることが予想される。そこで野本院長が構想中なのが訪問診療である。開業する直前に勤務していた佳晴会では訪問診療を熱心に行っており、野本院長もそこで腕を磨いた。

「訪問診療では主に義歯の治療となりますが、難症例も多いです。そこで難症例に取り組んでいるうちに、義歯の治療そのものが簡単なように思えてくるんです。最近、若い歯科医師が「訪問診療は技術の向上にならない」と避ける傾向にあるようですが、必ずしもそうとは言えないでしょう。また限られたスタッフや内容の中で結果を出していくことも今後の臨床の力を向上させてくれますよ。」

若い歯科医師への指導

ニコニコ歯科のもとクリニックニコニコ歯科のもとクリニックには、現在2人の常勤医師と5人の非常勤医師が在籍している。野本院長は患者さんとの信頼関係を築くために必要なことは「痛がらせない」ことであり、この技術にはかなりの修練が必要であるとの確信を持つ。
「患者さんを毎回痛がらせてしまったら、やはり叱りますね。でも「痛がらせない」というのは簡単なようで、一番難しいことなんです。そして詰め物などが外れないということも本当に難しいもので、きっちりできる歯科医師は少ないです。そういった診療に関しての技術的なアドバイスを惜しみなくしています。」

また経営に関しても、将来開業医を目指す歯科医師には具体的にアドバイスを行う。野本院長の「人と同じではダメ」という考えがもっとも生かされるところだ。

「歯科医院は世の中にあふれています。そこで生き残ろうと思ったら、人と同じではダメで、違った特徴を出していかないといけません。私どもで言えば、夜10時までの診療と日曜日の診療といったことですね。」

今後の展望

野本院長に今後の展望について伺った。

「患者さんの満足度についてはまだ分からないのですが、多くの患者さんにおいで頂いているところをみますと、概ね支持されているのかなあと思います。今後は量よりも質の向上を目指したいですね。もともと高度医療を勉強したくて、こちらに勉強に来たのですから、今後はインプラントや審美的なことも行えたらと思っています。」

メッセージ

野本院長に若い歯科医師へのメッセージをお願いした。

「一度働くと決めた歯科医院には最低3年は腰を落ち着けて、じっくりと頑張りましょう。3年以上いれば、自分の治療の経過をある程度確認できます。これは本で読んだ知識よりも勉強になりますよ。あちこち転院してしまうと、結局何も身につきません。広く浅い知識というのは何も知らないのも同然です。一つのことを極めるていく過程において、より多くを学ぶことができると思うのです。」

タイムスケジュール

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