歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

いさみ歯科☆きららクリニック 勇 雅大 院長

いさみ歯科☆きららクリニック

植木温泉で有名な熊本県鹿本郡植木町は人口30,776人を有する大規模な町であるが、農園が点在する田園地帯が広がり、のどかな町並みが続いている。日本一のスイカの名産地としても知られており、メロンやみかんなど、季節ごとに野菜や果物が収穫される。春夏秋冬を獲れたての食べ物で感じることができ、新鮮な果物や野菜を低価格で購入できると県外からの観光客も多い。
開院してまだ9カ月、やる気に満ち溢れた「いさみ歯科☆きららクリニック」の勇雅大院長にインタビューをお願いした。歯科医院の新規開業が滞る昨今、これから開業を考えている若手の歯科医師の先生方に現状をお伝えできれば幸いである。

いさみ歯科☆きららクリニック 勇 雅大 院長

いさみ歯科☆きららクリニック 勇 雅大 院長

プロフィール

  • 1976年 熊本県生まれ
  • 2004年 九州歯科大学 卒業
  • 2004年 医療法人宝歯会 かじわら歯科医院 勤務
  • 2005年 医療法人宝歯会 あやらぎスマイル歯科医院 分院長として立ち上げ
  • 2006年 マイスター春日歯科クリニック 開設
  • 2009年 いさみ歯科☆きららクリニック 開業

開業に至るまで

歯科医師を目指した経緯について教えてください。

実を言うと、高校1年のときに担任に反発して「医歯薬系に行く!」と啖呵を切ってしまったことが始まりなんです。実際、進路を真剣に考えるようになったとき、世の中のためになることをしたいと思っていたので、本腰を入れて医学部を目指すことにしました。ところが、「歯科医師はどうだ」という父親の一言で、歯医者嫌いの私には全くの想定外だった歯科医師も考えるようになりました。大の歯医者嫌いということが、逆にいいのかもしれないと思うようになったんです。嫌いだと自分が思い込んでしまっていることの裏返しの行動を取れば、嫌いだと思われない歯科医院を作ることができるのではないかと考えました。嫌だと思っているところが悪い点なのですから、私には悪いところが見えているはずなんですね。それを活かして「マイナスをプラスに変えていこう」と、目指していく道がはっきりとしたので、歯学部を受験しました。

大学ではどのような過ごし方をされましたか。

大学に入って「歯科のことしか勉強せずに開業すると、どこかで分からなくなってくるのだろうな」と思いました。狭い世界の中で学び、生活していると考えも偏ってしまうと感じたのです。それで、「歯科の勉強は最低限にして、その分、社会勉強をする」ことをモットーとしました。大学ではバドミントンやボーリングなどの部活やサークルに所属したり、人に説明する力を身につけるために塾の講師をしたりと、一般的な目線でモノを見ていくように努めました。開業している方から、「技術は努力して、なんとか向上させることはできても、コミュニケーション能力は色んな経験を積んでいないと、すぐに身に付けることはなかなか難しい」ということを耳にしたことも大きかったですね。学校以外のアルバイトや他大学の他学部の友達との交流などで、歯科の世界以外の人達と関わりを持った経験はとても刺激的で、勉強になることも多かったです。また、偶然に、ある予防歯科の先生と出会いました。私はその先生の言う「ミラーを置いて、外に出よう」というコンセプトに共感したのです。予防歯科は歯科医院以外での日常生活をいかにコントロールするかということが大事な仕事です。結局は歯科医院の中にいても何もできず、外に出て、地域や町から変えていかなくてはいけません。そのうちに、歯科医師としての自分なりの方向性が見えてきました。予防歯科は「痛いことはしない」ようにするのが基本なので、私自身の歯医者嫌いの理由である「痛いことをされるから、行くのが億劫になる」という気持ちをいかになくすことができるか、考えさせられたんですね。私の歯医者嫌いを裏返す出会いになったと思いました。この出会いがその後の進路に大きな影響を与えてくれたのです。

医療法人かじわら歯科医院を勤務先に選んだ理由を教えてください。

場所や勤務先にはこだわりはなく、とにかく患者が多い歯科医院で学びたいと思って、探しました。患者様の多いところで鍛えていかないと成長するのは難しいでしょうね。妻が北九州にいたことがあり、身近な土地でしたが、場所がどこであっても、自分の理想の歯科医師になりたいという気持ちの方が強かったです。勤め先にこだわらず、一方で、何かを我慢することなく、迎え入れてくれるところで精一杯努力すれば、どこででも必ず成長するはずであり、どんなところでも対応できるようでなければ、開業しても難しいと思ったのです。

歯科医師として働くにあたり、愛情を持って厳しく教えていただいたことはのちに開業する上でとても役立つものでした。ともに働いている先生も朝の5時台に起床して、6時過ぎには出勤し、その日の患者様の治療計画を再度チェックして、模型を削って、理事長にOKをもらって、という日々を送っていました。私は「5年で開業する」と決めていたので、人の2倍、3倍努力しなければ間に合わないと思い、厳しく教えていただけることがかえって有難かったですね。2、3人のドクターで、1日80~90人の患者様を診ていました。

入職半年後に外来部長に任命され、1年後には先輩もいる中、新しく立ち上げる分院の分院長に抜擢していただきました。躊躇する気持ちもありましたが、諸先輩方も私の努力している姿を見て、認めてくださいました。私としては5年後の開業を目指している以上、この上ないチャンスだと思って、引き受けました。理事長の采配や手法を見習って、「これだけの時間があって、こんなことに気をつけたらいいのか、売上げを伸ばしてしていくにはこうしたらいいのか」などと、分院長として分院を持たせてもらって初めて気付かされることが多くありました。理事長からは「完璧にできなくてもいい。でも患者様が心配しないように、10年、院長をしている顔で臨め」と教えていただき、院長として自覚を持った言動をするよう心がけていました。

経営理念

立ち上げから分院長としての経験も積み上げたところで、植木町での開業に踏み切った、その理由について教えてください。

きっかけは父親からの「故郷へ戻って来い」という一言でした。幼い頃からこの土地の雰囲気などもよく知っていました。また、アクセスの良さ、駐車スペース、人がどれだけ通いやすく、建物がどれだけ人目につくのかということはもちろん、地域とともに頑張っていけるかなど、様々なポイントをトータルで考えて、植木町に決めました。

コンセプトやこだわりを教えてください。

最終的には周りのお店や人々と一緒になって、相乗効果で植木町を活気溢れる地域にし、その先は熊本県、そして日本を元気にしたいという野望があるんです。(笑)。今のところ、隣のカフェと共同で、キシリトール100%のお菓子を開発したり、イベントを催したり、地域美化活動として、周辺地域や道路の清掃を行ったりもしています。

内装もカラフルですね。

いさみ歯科☆きららクリニック誰でも一人一人、趣味や嗜好は違います。私どもとしては子どもからお年寄りまで受け入れたいと思っていますが、そう思っているばかりでは、誰も集まってくれません。しかし、この患者層では子どもが基本となるのではないかと思ったのです。子どもに気に入ってもらえたら、ご両親が来てくれるかもしれないし、親になったときには子どもを連れて来てくれて、おじいちゃん、おばあちゃんになったときには孫と一緒に来てくれるかもしれません。そこで、子ども目線で考えて、それに大人のテイストを少し織り交ぜた設計でいこうと決意しました。それで、診療室は子どもが分かりやすいような原色にして、「今日は○色の部屋がいい」と子どもが楽しみに来てくれる歯科医院にしたかったのです。

開業準備にあたって、どんな苦労がありましたか。

勤務しながら徐々に開業の準備を進めたことでしょうか。約1年かかりましたよ。夜の9時に北九州市で診療を終えて、それから車を飛ばして熊本へ入って、夜中の12時に着いて、工事の方と打ち合わせして、2時か3時に現地を出発して、5時に帰り着き、1時間だけ寝て、診療に臨むという日もありましたね。人の流動を確認するため、熊本を車で駆け巡り、自分の目で確かめ、調査もしました。トータルで40往復ぐらいしたかもしれません。

経営理念をお聞かせください。

コンセプトとしては患者様と同じ目線で考えることです。一方で、若いドクターのレベルアップをしてあげられる歯科医院にしたいと思っています。求職者全員に言っているのは「プライドを捨てて下さい」ということです。必要以上の偏ったプライドは障害になってしまうことがほとんどだと思うんですね。もちろんドクターとして、患者様に認めていただいているというプライドは持っていた方が良いですが、患者様とドクターは違うという概念を捨てないといけません。そこで、患者様と同じ目線で考えると、相手が何を求めているのか、自分が何をすべきかが自然と見えてきます。まだまだ目標や夢を達成できてはいませんが、それでも高い目標を持っていなければ、道は開けてこないと思います。

診療方針

・目的別のユニット

いさみ歯科☆きららクリニック老若男女問わず、皆様に気軽に通っていただける歯科医院にするため、例えば、赤の1番ユニットは子どもや子連れの大人専用としていて、小さな窓を作りました。これによって、外から子どもの様子や親の様子を見ることができます。また、一緒にユニットに通すこともできるように、ほかのユニットより広いスペースを取っています。また、おもちゃもある広めのスペースを設け、治療中にお子様を預けていただけるよう保育士も常駐しています。そして、青の3番は入り口に近いので、体が不自由な方やお年寄り専用に使い、負担の少ない、違う種類のチェアを使っています。入り口から全てバリアフリーなっていて、車椅子の方も行き来しやすいよう、幅広く通路を設計しています。

・コンシェルジュの存在




いさみ歯科☆きららクリニック患者様はユニットで症状を伝え、すぐ治療に入るのではなく、まずはコンシェルジュがカウンセリングルームで問診し、その後、症状に合った診療計画を伝え、そして治療に入っていただくという段階を踏んでいます。患者様のニーズや事情をお聞きし、いわゆる「かゆい所に手が届く」ような気配りをすることで、一人一人の都合に合わせて治療計画を組め、スムーズな診療につながっています。

・オープンクリニック
大学、専門学校、就職活動セミナーなどで当医院の見学を希望される方を募り、応募があれば、毎月1回を目安にゆっくりご見学いただくよう時間をとっています。

増患対策

いさみ歯科☆きららクリニック増患のために対策していること正直言って、ないですね。ただ、患者様に私どもの歯科医院をより分かっていただくための工夫はしています。「今の私どもの動きを分かってもらいたい、興味を持ってほしい」との思いから、スタッフが『きらら通信』を手作りしたり、「院長ブログ」や「スタッフブログ」をホームページに掲載しています。

また、オープンなイメージにするべく、大きなガラス張りの窓にしてあります。中のスタッフの動きが見えますから、どんな歯科医院なのか、なんとなくでも分かっていただくようになっています。キッズルームも外側に面しているので、ベビーシッターがいる風景を見ていただくだけで、初診のお母様も安心してお子様を連れて来てくれています。

ほかには、メール予約システムを設けています。特に新患様は電話する勇気がないと言われる方も多くいらっしゃるので、一人でも多くの方が気軽に予約を入れていただけるよう、メールで予約できるようにしています。コスト面を考えるより、まずは患者様の目線で必要なもの、あったらいいなと思うものを提供していくことが結果として増患につながるのではないでしょうか。

スタッフ教育

よりよい診断とサービスを患者様に提供していかなくてはなりませんので、キャリアや年齢にとらわれたプライドは捨ててもらい、お互いが切磋琢磨しながら、助け合っていく雰囲気を作る必要があります。また、全員のレベルをある程度同じように向上させなければ、人によって偏りのある治療となってしまいます。一方、一緒に働く人のことを好きにならなければ、いい働きはできませんから、スタッフミーティングやセミナーを頻繁に行っています。

いさみ歯科☆きららクリニックスタッフがどんなことを考え、どんな性格なのかなどを分かってあげられるように、仕事中には話せないような夢や目標を語ってもらうときもあれば、それぞれの良いところを言い合うときもありますね。私は基本的にトップダウンではなく、自分自身で考えてもらうきっかけを作り、やらせるのではなく、個人が考えて自発的に行動してもらうように促しているだけです。

歯科衛生士、歯科助手への教育はいかがですか。

やはり患者さんへの対応が中心ですね。接遇を意識し、言葉遣いや細かい気配りを大切にするように話しています。私どもでは歯周病治療に力を入れていますので、歯科衛生士専用のユニットが2台あり、1時間の枠を取って予防歯科を行っています。患者さんのモチベーションも上がり、結果として自費診療も増えていますので、歯科衛生士の役割は大きいですね。

今後の展開

今はあくまでもベースとなる部分を作っているところですが、将来的には人々が気軽に集まることが出来る「ステーション」としての役割を果たせるような歯科医院にしていきたいと思っています。例えば、「買い物帰りに立ち寄れる」というところであったり、予防歯科について分からないときやサポートを受けたいときに、歯科医院としてではなく、「予防センター」という感覚で来てもらえるスペース作りをしていければと考えています。 さらに、地域を活性化するためには、色々な患者様に対応できるような訪問診療や送迎などの施設も作りたいですね。

開業に向けてのアドバイス

歯科医院側の都合を度外視して、患者様のためになることをとことんやり抜いていけば、失敗することはないと信じています。一般企業であっても、顧客のことを考え、より多くのサービスをし、それがより多くの顧客へ伝わったところが勝ち組と言われる側にいます。それからすれば歯科業界にはかなりの余地があると思います。厳しい時代と言われていますが、逆にビジネスチャンスに恵まれている業界のはずです。そして、開業した後も現状に満足せず、常に向上心を持ち、患者様のためになることを第一に考えて、時代に合わせた進化をしていけば、求められる歯科医院になるのではないでしょうか。
さらには、歯科医としての目線でモノを考えず、患者様目線で考えることですね。難しいですが、すごく大切なことだと思います。また、コミュニケーション能力、対応力、説明力は必要です。大学で学ぶ歯科知識、技術以外に、一般社会における常識をしっかり学んでおくことは開業医には大切なことだと痛感しています。

プライベート

時間が少しでもあれば、幼い子どもたちと遊んだり、仕事に使っていますね。モータースポーツやサッカー、創作活動も好きで、小説を書いたり、漫画、水墨画など、趣味は多いのですが、1%もできていない状態です。趣味は原動力となり、指標を与えてくれるもので、漫画で感銘を受けた「進歩のないものは決して勝たない」という言葉は私の格言です。
車も好きなんですが、開業のために売却してしまい、今は持っていません。「2年後には絶対に好きな車に乗ってやるぞ!」と自分に言い聞かせて頑張っています。(笑)。それから、できれば週に1度は妻と2人で食事に行く時間を作れるようにしたいですね。

【タイムスケジュール】

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