歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

ヨリタ歯科クリニック 寄田幸司 院長

ヨリタ歯科クリニックでは「ワクワク楽しい」をコンセプトにしている。このコンセプトのもとで、実践してきたのがヨリタメゾットと呼ばれるものである。
開業地は近鉄奈良線河内花園駅から徒歩2分ほどの場所であるが、道も狭く、車での来院が不可能な場所である。さらに近鉄奈良線は駅間が狭く、「駅前」と言える土地が広いせいか歯科医院が乱立している状況で、ヨリタ歯科クリニックの周囲にも10軒以上の歯科医院が競い合う。
そうした中で開業してちょうど15年を数えた今、チェアは10台(うち歯科衛生士専用が3台)になり、1日平均の外来患者数は120人を超え、しかも「他院に逃げる」ことが極めて少ない状況を作り出している。
今回はヨリタ歯科クリニックを率いる寄田幸司院長にお話を伺った。

ヨリタ歯科クリニック 寄田幸司 院長寄田幸司院長は1962年に大阪府和泉市で生まれた。お父様は繊維関係の会社を経営され、医療とは無関係の家庭で育つ。高校時代には建築家を目指し、工学部への進学を考えていたという。

「漠然と阪大の工学部にと思っていましたが、共通一次の点があまり思わしくなくて、希望する学科ではない学科に振り分けられるのは嫌で迷っていました。そこに友人が来て『岡山大学歯学部の願書をもらってくれ』と言うのです。その友人はもともと歯科医を目指していたのですが、他大学を受験することにしたので、岡山の願書が不要になり、たまたま隣にいた私にくれたんです。それで受験を決めました(笑)。」

1987年に岡山大学を卒業して、大阪の小室歯科に就職した。学生の頃から開業への希望を持っていたという。そこで、開業前に様々なことを学べる小室歯科に惹かれ、入職試験を受けた。小室歯科は天王寺や難波など、大阪の中心地で展開する大きな歯科医院グループであり、毎年新卒の歯科医師しか採用しないことでも知られている。寄田院長は厳しい試験に合格し、勤務医としての生活をスタートさせた。

「小室歯科ではいろんな意味で鍛えられました。保険診療、自費診療など項目ごとに成績を貼り出されます。同期は7人でしたが、皆優秀でしたし、技術的にも向上しました。4年間勤務して開業することになりました。」

開業地に選んだのは東大阪市花園本町である。ここは奥様の実家のある場所で、奥様のお父様が松田医院を開業しておられた。1階に松田医院、2階にヨリタ歯科クリニックという医療ビルを設立し、開業の運びとなった。

「どこで開業しても成功する自信がありましたので、開業地にこだわりはなかったです。ここは高齢化が進んでいる地域で、周囲の歯科医院は全て1階で診療されています。ところが当院は2階ですし、階段しかありません。車での来院は不可能ですし、自転車置場がたくさんあるわけでもありません。でも、そういったことはあまり気になりませんでした。」

当初はチェアは3台だったが、開業して8年ぐらいのときに6台にまで増える。それまで寄田院長が孤軍奮闘して、1日に50人ほどの患者さんを診ていたという。そこで初めて勤務医の歯科医師を迎えた。

「開業当初は特に増患対策などを行ったわけではありません。口コミによるものではないでしょうか。結局、患者さんの立場に立って診察するということに尽きるのだと思います。そこから技術や接客の向上も生まれるわけですから。」

ヨリタ歯科クリニックでは地域での啓蒙活動に力を注いでいる。カムカムクラブを立ち上げたのもその一環である。

ヨリタ歯科クリニック 寄田幸司 院長「小室歯科では4年間で2人の子どもしか診ていませんでした。学生の頃は補綴に目が行きがちでした。それで高い技術を学べる場として小室歯科を希望したわけですから、自費診療がメインでした。ただ、子どもが非常に好きでしたので、開業するからには子どもさんに来て頂けるクリニックにしたいと考えていました。そこで、カムカムクラブでのイベントや小冊子を発行して、情報発信を行っています。この地域では小児歯科に取り組んでいらっしゃる歯科医院が少なかったのです。そこがビジネスチャンスでもありました。小児歯科を特別に学んだわけではありませんが、何かで一番になりたかったんです。今では小児歯科に通院していた子どもが私たちの医院に来てくれるようにもなりました」

カムカムクラブには虫歯の有無にかかわらず、乳児から学童期まで入会可能である。原則的に全て保険の範囲内で行っている。口内の健康について学んでもらい、クリーニングやフッ素加工を行う。「カムカムフェスタ」というイベントには100人を超える参加者があるという。

「あくまでも健康がテーマです。患者さんが定期的にいらっしゃるコミュニティーを作りたかったのです。患者さんはなかなか普通の定期検診にはいらっしゃいません。『来てくださいね』と言えば、逃げてしまいます。私たちは『ここに来たい』と思ってくださるような理想の将来像をわかりやすく患者様に提示します。」

矯正歯科も充実している。3階は「ウェルカムサロン」と称し、矯正、予防、審美歯科専用のスペースになっている。

「矯正は最初のうちは紹介していました。でも、患者さんからの『ここでやってほしい』というニーズをたくさん頂き、私たちで行うようにしました。今では月5日で200人ほどの患者さんに来て頂いています。」

ヨリタ歯科クリニックを訪れると、スタッフの接遇マナーが非常に丁寧に行き届いていることに驚かされる。スタッフ教育にあたっては、寄田院長が学生時代に経験したホテルのフロントでのアルバイトから得たこともヒントになっているという。

「若いスタッフが多いですし、口うるさく言うのは逆効果です。『なぜ、そうするのか』ということを自分たちで考えていけば、自然に良い雰囲気になります。そして既成のマニュアルではなく、自分たちでマニュアルを作ることができるようになっていきました。私の仕事はそういった学ぶ仕組みを作ることです。理想は最初からできるスタッフに来てもらうことです。お蔭様で当院では、スタッフのモチベーションが非常に高いです。そのモチベーションを下げさせない工夫が必要です。それはスタッフに夢とやり甲斐を与えることだと思っています。スタッフの良いところを見つけ、誉めたり、ねぎらったり、そして報酬に反映させるなど、スタッフが仕事を通じて、学び、成長する風土や文化を創ることが経営者の役割ではないでしょうか。スタッフ皆が意識が高くやりがいを感じているクリニックには患者さんがいらっしゃるものです。」

毎朝の朝礼では、皆でハイタッチを交わし、「おはよう」の挨拶が飛び交う。皆の笑顔が印象的な光景である。

「私たちは受付のスタッフをスマイルクリエーターと称しています。ワクワク楽しい歯科医院を実践していくためにはスタッフの笑顔が必須です。週に1度、スタッフミーティングを行っていますが、私は顔を出していません。私が出ない方が活発で良い意見も出るようです。」

寄田院長に今後の展開を伺った。

「今後は、私がプロデュースしたワクワク楽しい歯科医院を全国に広めていきたいです。私たちの医院は70坪と広さには恵まれています。だから成功したのだろうという声も聞きますが、25坪しかなくてもケアゾーンを作りカウンセリングに時間をかけた患者さんに満足して頂けるシステムは構築できます。講演やセミナーなどを通じて、そういったノウハウもお伝えしていきたいと思っています。本院の規模はこれ以上大きくはできません。そこで質を保ってきっちりとやっていきたいです。また矯正の医師を育てたいという希望もあります。私の理想の医院は患者さんに支持して頂く歯科クリニックである以前にスタッフから支持される歯科クリニックであることです。」

現在、ヨリタ歯科クリニックでは、歯科医師を募集している。寄田院長に求める歯科医師像についてお話して頂いた。

「衛生士にしても、助手にしても、面接時私の考え方を資料として渡しています。私の方向性と同じ方で、私の夢に賛同してくださる方に来て頂きたいです。経験の有無は関係ありません。『こういう医院を探していた』と言って頂ける方をお待ちしています。私の夢については面接のときにお話します。ここから半径10キロ以内に開業しないことを約束してくださるのなら、開業後のノウハウは全て伝授します(笑)。」