歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

アオキ歯科医院 青木 誠喜 院長

アオキ歯科医院は兵庫県尼崎市のJR尼崎駅前にある。尼崎駅周辺には以前キリンビールの工場があったが、近年はその工場跡地にマンションや住宅などが立ち並び、再開発が進められている。
アオキ歯科医院を牽引する青木誠喜院長は黎明期の頃からインプラントの研究を行い、1993年に満を持して開業する。インプラントは現在も年間150本もの症例を有し、アオキ歯科医院を代表する治療となっている。また2004年には臨床研修施設にも認定され、研修医の教育にも力を注いでいる。

開業まで

お生まれはどちらですか?

アオキ歯科医院大阪市内です。1960年に生まれました。実家は祖父の代から材木屋を営んでいました。

なぜ歯科医になろうと思われたんですか?
中学の頃、「白い巨塔」を見て、漠然とかっこいい職業だなあと思ったことがきっかけでしょうか。最初は医学部を目指したんですが、結局歯学部になりまして、大阪歯科大学を1986年に卒業しました。バブルの時代に社会に出ていったわけです。

卒業後はどちらに勤務されたんですか?

兵庫県伊丹市の上り口歯科医院です。大学時代、補綴に興味があったので、大学に残ってずっと研究したいと思っていたんですよ。補綴の教室の助教授の先生を尊敬していました。そこで、その先生から「将来、開業するのであれば、きっといい勉強になるから」ということで、上り口歯科医院を紹介して頂きました。

勤務医時代を振り返って、いかがですか?

上り口先生は職人気質と言いますか、「匠」という存在ですね。仕事に大変厳しい方です。インプラントがまだ大学からも白い眼で見られていた時代にいち早く取り組まれ、成果を上げていらっしゃいました。世はあげてバブル時代でしたから、私も多くの症例を勉強させて頂きました。

勤務医を8年されたというのは、当時としては長いですよね。

上り口歯科医院があまりにも居心地が良かったんですよ。勤務医のときに教わったことは今も本当に力になっていますし、研修医の教育の際にも役に立っていますね。

開業地をこちらに決定された理由をお聞かせください。

上り口先生はあまりお丈夫な方ではなく、「何かあったら来てくれ」と言われていました。そのため伊丹の近くで探したんです。ここは業者の方からの紹介でした。1993年の開業ですから、当時はまだキリンビール工場への引き込み線があり、駅の傍にはビールケースの山が築かれていました。尼崎駅も今のように綺麗ではなく、裸電球が点いているようなイメージだったんですよ。その後、東西線が開通して、駅も綺麗になり、新快速が停車するようになって、本当に便利になりました。

チェアは何台だったのですか?

3台でした。現在は5台で、そのうち1台が歯科衛生士専用です。あと1台は増やしたいのですが、場所の確保に頭を悩ませているところです。

インプラント

開業当初からインプラントを手掛けられたのですか?

アオキ歯科医院 そうです。最初は患者さんもインプラントの存在をご存じなかったので、「釘を入れるの?」と驚かれていましたよ。現在とは隔世の感がありますね。そこで「モニター」と称し、無料で治療して認知度を上げていきました。上り口歯科医院でかなりの経験を積んでいましたので、自信を持って治療を進めていけたと思います。すぐに宝塚や川西からも患者さんがいらっしゃるようになりました。

早くに始められたことがアドバンテージになったんですね。

ただ私としてはインプラントだけを特別視しているわけではなく、デンチャー、ブリッジと同様に、治療におけるチョイスの一つだと考えています。医師が特別視してしまうと、患者さんも特別視してしまいます。そうすると患者さんが期待して抱くイメージと実際に提供されたものの間にギャップができてしまいます。そのイメージのギャップが大きいとトラブルや医療事故につながりかねません。

そのギャップを埋めていくためにコミュニケーションが必要だと思われますが、どのように努力をされているのでしょうか?

症例写真の提示などをきちんと行うようにしています。そして無理に勧めないことも肝要です。患者さんがどういう希望を持っていらっしゃるのかを的確に判断し、その希望にインプラントが最適であれば勧めるといったスタンスですね。最適であってもリスクはありますので、その点も丁寧に説明しています。インプラントでなく、他の補綴の方がいい場合もありますし、機能回復と審美的な問題のバランスも常に考えています。

現在、年間150本だということですが、この症例数をどうご覧になりますか?

こんなものかなあとも思いますが、もっと増やしたいですね。

審美歯科

審美歯科にも力を入れていらっしゃいますね。

アオキ歯科医院審美歯科という言葉は以前はなかった言葉です。エビデンスに基づいて治療すれば、審美的なこともカバーできます。どうも「審美」という言葉だけが先行しているような気がしますね。ただ、審美的なことを重点的に行うためのテクニックも存在します。アメリカは非常に熱心な印象ですね。一方、ヨーロッパではあまり聞きません。ドイツは機能的な問題をしっかり研究していますし、スウェーデンもエビデンス重視ですしね。

小児歯科

小児歯科についてはいかがですか?こちらでは「はっぴーくらぶ」を組織していらっしゃるそうですが。

開業当初、このあたりはデンタルIQが非常に低かったのです。フッ素のことをご存じない保護者の方もいらっしゃいました。そこで「はっぴーくらぶ」を作り、子どもさんが抵抗なく通院できるような工夫をしました。誰でも歯科に通院するのは嫌なものです。しかしながら歯磨きの指導やフッ素の塗布には楽しく通院できるわけですから、そこからデンタルIQを高めていく素地を作っていきました。かなりの反響があり、高校生になっても通院されていますよ。最近、このあたりは再開発で高層マンションがどんどん建設され、子どもさんの数も増えていますから、やり甲斐もあります。

院内ラボ

院内ラボも完備されていますが、最近では珍しいですよね。

私自身、補綴が好きですし、「自分のところでできるものは自分でやりたい」という思いがありましたので、院内ラボは迷わず設置しました。品質のごまかしをしたくないんです。現在はチタンの鋳造とジルコニアは外注していますが、そのほかは全部院内で行っています。

臨床研修施設

アオキ歯科医院臨床研修施設の認可を取られた動機について、聞かせて頂けますか?

これからますます資格社会になるだろうと感じていました。厚労省も病院の格付けを行っていましたから、その波が次は歯科に来ると考えたんですね。その格付けのハードルが徐々に高くなることも想像できましたので、初年度からの認可を目指しました。臨床研修施設は公的な「資格」ですから、看板にも堂々と記載できます。仮に隣に歯科医院ができても、この看板は患者さんが信頼して、私どもを選んでくださるきっかけになるだろうとも思いましたね。ただし、診療という中身の方が看板よりもはるかに大事ですが。

初年度から研修医を迎えられたんですか?

いえ、初年度は設備の問題もありましたので、見送りました。2005年度に義務化されたときに一人入職し、現在も研修中です。

アオキ歯科医院での研修の特徴についてお話しください。

最近の歯科大生たちは「きちんとした師匠につきたい」と話しているそうなんですね。研修先で歯科助手の代わりに働かされたり、教えてほしいことがあっても教えてもらえないという例もあるそうですが、私どもでは歯科医師として働いてもらっていますし、ダメなときは私も怒ります。私自身も上り口先生によく怒られました。でも失敗しても手厚いフォローを頂いていました。その経験を十分活かした研修内容にしています。また患者さんとのトラブルに際しては顧問弁護士を置き、対応しています。

患者さんとのコミュニケーションが苦手だという若手医師は多いようですね。

私はよく「問診ではなく、インタビューをしろ」という話をしています。患者さんの話をうまく聞けるようにならないといけません。相手が望むことを理解したうえで、こちらから医療サービスを提供することが必要です。どうやら学生時代に無茶をして、よく遊んだ人の方がうまく話ができているような感じですね(笑)。こつこつ努力してきた人はどうも自信がないように見えます。患者さんも若い医師が担当だと不安なんです。そこで「任せてください!」という強い気持ちを持ってほしいです。誠意と熱意が伝われば、患者さんも怒りませんから。

学会活動

最近、ドイツでの学会に参加されたそうですね。

腸骨を用いた骨移植のライブオペを見学してきました。特殊なカメラを使っているため、非常に鮮明な映像を見ることができます。また医師もインカムをつけていますので、その場で質問もできます。患者さんは全身麻酔されていました。ドイツでは歯学部に進学するためには医学部を卒業していることが条件で、歯科医は医科とのダブルライセンスなんですね。したがって整形外科医レベルの手術が可能です。日本では設備や保険制度の関係もありますので、腸骨での骨移植は大学レベルでないと難しいでしょうね。

経営について

保険と自費の割合はどのくらいですか?

アオキ歯科医院7対3です。将来的には5対5にしたいです。昨年は診療報酬の改正がありましたが、私どもでは増患していましたので、あまり問題なく乗り切りました。

自費の割合を高めていくにあたって、必要なことはどんなことでしょうか。

スタッフの存在は大きいですね。女性スタッフが患者さんと話すほうが自費の増患につながるようです。スタッフが患者さんから様々な情報を受け取り、それを医師に伝え、うまくバトンタッチできれば、いい結果になります。

どのようなスタッフ教育をされているんですか?

社会人になった以上は本を読めと言っています。3か月に1冊の割合で本を読み、感想をリポートしてもらっていますが、これでかなりモチベーションが向上しています。課題図書は歯科経営コンサルタントの岩渕龍正さんにピックアップして頂きました。「金持ち父さん、貧乏父さん」、「ディズニーの七つの法則」、「女性を動かすのがうまい人ヘタな人」などで、恋愛物はご法度のようです(笑)。

売上もオープンにされているとか。

売上だけでなく、レセプトの枚数、保険点数、自費率も全てオープンにしています。目標を立てて、「達成できたらハワイに行こう」と言いまして、実際にハワイに行きましたよ。最近では私の方がうまく働かされているような気もしています(笑)。

資格手当もあるそうですね。

日産を立て直したゴーンさんの手法を取り入れ、スタッフ教育に予算をとるようにしています。衛生士も研修会に積極的に参加させて、費用の半分を負担しています。助手の一人が今度コーチングの資格にチャレンジするのですが、合格したら全額負担、失敗したら自己負担と決めました。無事資格を取得できたら、手当をつけます。

ホームページもかなり充実させていらっしゃいますね。

歯科医師の技術さえあれば、患者さんがいらっしゃる時代は終わりました。今はどれだけPRできて、どれだけ社会に発信できるかが大切だと思います。そのためホームページにはかなり力を入れています。ホームページは運営や解析のスピーディーさが必要ですね。

今後の展望

今後の展望について、お聞かせください。

患者さんにとってのオンリーワンでありたいです。上り口先生がよくおっしゃっていたのは「ベストを追うな、ベターを追え」「百歩先のことを知って、五十歩先のことをやれ」ということでした。そのためには常に勉強していかないといけないと思っています。

メッセージとプライベート

若手医師にメッセージをお願いします。

これから歯科ははっきりと二極化していくでしょう。こういう時代だからこそ、真摯に学問や臨床に打ち込むことが求められています。アメリカやヨーロッパで技術を研鑽したり、学問や臨床に関する情報を広く手に入れて、一生懸命に取り組んで頂きたいですね。

最後に、ご趣味について、お聞かせください。

これまで付き合い程度だったゴルフを2年前から本格的に始めました。歯医者チーム、弁護士チーム、経営者チームと分けて、私主催のコンペを年に1回ずっとやってきたんですよ。私は世話役でしたし、ゴルフ自体が苦痛だったのですが、やるからには真剣にやりたいと思うようになりました。毎週スクールに通って、レッスンプロに指導を受け、月2回はラウンドしています。シングルになるのが夢です。