歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人鉄蕉会 亀田メディカルセンター 篠ヶ谷龍哉歯科部長

医療法人鉄蕉会 亀田メディカルセンター 篠ヶ谷龍哉 歯科部長

医療法人鉄蕉会 亀田メディカルセンター 篠ヶ谷龍哉歯科部長

プロフィール

  • 1981年 東京医科歯科大学卒業
  • 1985年 東京医科歯科大学・大学院歯学研究科卒業
  • 1985年 東京医科歯科大学歯学部補綴学第一講座(部分床義歯学担当)
  • 1986年 文部省在外研究員としてSWEDENルンド大学(現マルメ大学)及びイエーテホツ大学歯学部にてインプラント補綴の研究
  • 2001年 東京医科歯科大学摂食機能評価学分野(全部床義歯担当)講師
  • 2004年 東京医科歯科大学摂食機能保存学分野(冠橋義歯担当)講師
  • 2007年5月 当院、歯科部長として着任

1.留学前後~亀田クリニック歯科センター入職に至る経緯

卒業後、母校の歯科補綴学第一講座に入局し、松元誠先生、後藤忠正先生、真鍋顕先生など日本の部分床義歯学をリードしてこられた先生方の傍らで補綴学を学ばせていただきました。そして患者さまにも満足していただける治療を施せるようになったと思っていたときに、国際学会とジョイントした補綴学会が1992年に広島で開催され、松元誠先生の親友であるプライスケル先生の部分的歯牙欠損症例に関する講演を拝聴する機会を得ました。
「世界的に高名な先生はどんな義歯を作られるのだろう」と期待を膨らませていたら、全てインプラントで補綴された症例ばかりでした。当時、オッセオインテグレーションは今ほど一般的でなく、インプラントといえばサファイアやブレードを使ったものと考えられており、義歯を学んでいる歯科医師の間ではインプラントは非難の対象とされていました。そのような状況の中でインプラントの症例ばかり提供してくれたプライスケル先生の講演は、僕にとってカルチャーショックでインプラントに対する興味が生じました。しかし、先輩方の反対もあり、また大学のスタッフとして働いていた私にとって国内でインプラントを学ぶのは至難の技でした。
大学を辞職しようと考えていた矢先に、恩師でもある松元誠先生が新しく開設された講座の主任教授に就任され、一緒に仕事しようと声をかけていただき、10年間住み慣れた補綴学第一講座から移動することになりました。
これを転機にインプラントを学ばせてもらおうと考えていたら、松元先生からインプラントを学びに留学しないかとおっしゃっていただいて、1996年4月から1年間スウェーデンのルンド大学(現マルメ大学)歯学部に留学させていただきました。 スウェーデンではインプラント治療よりももっと重要なことを学ばせてもらうことができました。その中のひとつは「患者さまを中心にした歯科医療とは何か」ということです。
どんな人でも好きで病院に来る人はいないと思います。特に歯科医院には。それでは患者さまは何を求めて歯科医院にくるのでしょうか。
咀嚼・発音・審美といった機能に障害が生じ、その機能の改善を求めて歯科医院を受診されるのではないでしょうか。患者さまごとにそのライフスタイルが異なるように、障害を受けた機能の程度も患者さまごとに異なることが補綴処置を難しくしています。したがって、機能状態を客観的に評価できる方法があれば、患者さまに適した診療計画が作成できることになります。
帰国後、当時東京医科歯科大学歯学部付属病院の病院長を勤められていた大山喬史教授の下で機能評価法構築の研究に携わりました。
留学で学んだもうひとつの重要なことは科学や技術の進歩に追従できる学習方法は何かということです。現在では、歯科教育に問題解決型学習法(PBL)を取り入れている日本の大学は数多くありますが、当時歯学部の卒前教育にPBLを取り入れていたのは世界でルンド大学だけでした。帰国後、チューターとして卒前教育に参加した経験を生かし、患者さまから抽出された問題点を解決しながら治療計画を考えていくような症例検討会を行い、若い先生のレベルアップと患者さまの医療に対する安心感を得るのに効果的であることを肌で感じました。

松元誠先生が退官後、全部床義歯で高名な早川巌先生と一緒に全部床義歯の臨床、教育に携わり、その後三浦宏之教授の下で冠橋義歯の臨床、教育に携わりました。私の意志とは関係なく奇遇にもインプラント補綴を含む全ての補綴の分野を学ぶことができ、補綴に関してはオールマイティな知識、技術を身につけることができました。
転機が訪れたのは国立大学の独立行政法人化が施行され、亀田総合病院副理事の亀田高明先生が東京医科歯科大学の理事に赴任された頃です。大山喬史教授が退官後、東京医科歯科大学の副学長、理事に就任され、亀田高明先生が亀田総合病院歯科センターの底上げを任せられる歯科医師を大山先生に相談され、大山先生が私を亀田先生に推薦されました。 亀田病院歯科センターを見学し、その規模、スタッフの年齢層、患者さまの症型から私の実力を発揮すれば亀田病院のお役に立てることを確信しました。さらに、亀田病院は教育病院であり、優秀な医療従事者を育てていくことを使命としているという亀田高明先生の崇高な理念に感銘し、転職に至りました。

2.現状

>医療法人鉄蕉会 亀田メディカルセンター千葉県鴨川市にある亀田総合病院歯科センターは、常勤の歯科医師18名、非常勤歯科医師6名、歯科衛生士26名、歯科助手3名、歯科技工士12名、事務員8名のスタッフから構成され、毎年6~8名の研修医を受け入れており、ユニット32台で1日の平均外来患者数は約300名です。常勤歯科医師の年齢層は若く、鴨川に歯科センターが開設されて20年近く経過するにもかかわらず、人材が育っていないことが最大の問題点として診療システムの見直しを図ることにしました。
赴任当時、3台のユニットが最小単位となり、1名の歯科医師と2名の歯科衛生士が診療を行うスタイルをとっていました。ラーメン横丁のように小さな開業医が同じ場所で7つほど並んでいるような状態です。この形態は、競争意識を高めながらレベルアップを図るという利点がありますが、スタッフ間のコミュニケーションがないため、逆にお互いが好き勝手に診療しているだけの欠点ばかりが目立ちました。
そこで、最小単位を9台のユニットにし、そこに5~6名の歯科医師がグループで診療する形態に変更しました。このグループ診療はスウェーデンに留学した際に友人の歯科医師が行っていた診療形態で、大山喬史教授が東京医科歯科大学歯学部付属病院でも導入した診療形態です。患者さまは診療グループに属するため、定期的にグループ内で患者さまの情報交換を行う必要があります。各グループ内で、ヘッド、リーダーを設け、階層化することにより責任の所在を明確にしました。診療グループミーティングのほかに、幅広い情報収集を目的として補綴、保存、口腔外科、小児歯科の各分野のスタディグループを作り、専門的知識に関するミーティングを行うようにしました。
診療システムを変更してからまだ3ヶ月程度しか経過していないため、新しいシステムの欠点、利点はまだ分析できていません。グループ診療に対する不満の声が一部の歯科医師からあがっていますが、診療終了後のミーティングについては賛同を得られています。定期的なミーティングや実習を通じて、将来の歯科センターを背負っていけるような人材が育っていくことを確信しています。

3.今後の予定

始めたばかりのグループ診療を定期的に見直し、マイナーチェンジを行って完成度の高い診療システムにしていく予定です。亀田総合病院の歯科センターは鴨川のほかに、千葉市、君津市、茂原市、館山市に7ヶ所の分院を有しています。鴨川で完成した診療システムをこれらの分院でも実施し、歯科も亀田病院の医科に追いつけるような内容のある診療所にしていきたいと考えています。
患者さまの立場から、グループ診療の利点は診療所を変えなくてもセカンドオピニオンが得られる点にあると思っています。たとえば買い物する際に、近くに小さな商店があっても、離れた大型量販店に人気が集まるのは豊富な品揃えが原因ではないでしょうか。大学病院勤務時代に外来医長を長い間兼任し、セカンドオピニオンを求めて受診される患者さまが多いことを経験しました。グループ内に3名の歯科医師がいれば、患者さまは3通りの診療計画を聞くことができます。これは品揃えが豊富な大型量販店に買い物に行く消費者と同じ心境ではないでしょうか。
30年前ぐらいだと多くのユニットを揃えて大きく開業される歯科医師がいましたが、バブルがはじけてから大きく開業することを避ける歯科医師が増えています。しかし、これからは数人の歯科医師が共同してグループ診療する形態の診療所が成功するのではないでしょうか。歯科医師が過剰になっているスウェーデンでも個人の診療所よりもグループ診療を行っている診療所の方が患者さまは集まってきていました。今回始めた診療システムはこれからの歯科の基本的な診療スタイルになると考えています。

4. 医療行政への意見・要望

肝炎患者に関するニュースを見ていて、国民が安心して医療を受けられるようにすることを今の厚生労働省に期待することなど無意味だと感じますが、あえて要望するなら、専門医制度と小学校の給食後のブラッシングの義務の2点を早急に承認してほしいと思います。
専門医制度に関しては、先進国の中で導入していないのは日本ぐらいではないでしょうか。歯科医師をランク付けすることになるために歯科医師会が反対しているのなら国民にその是非を問うべきではないでしょうか。
医療において最も重要なのは予防であることは異論のないことだと思います。インフルエンザが流行すれば、手洗いとうがいを励行するのに、なぜ子供のうちからブラッシングを習慣づけようとしないのでしょうか。歯周病で歯を失くした患者さまの多くはその時にブラッシングの重要性を気づき、子どもの頃にブラッシングの習慣がなかったことを後悔します。歯科大学を増やし、歯医者の数を増やしたら、歯科の医療費もそれに伴って増大したというデータを持っているのに、なぜ予防を重要視しないのでしょうか。厚生労働省の役人は医科のことで手一杯で歯科医療のことまで手が回らないのでしょう。