【開業に至るまで】

歯科医師を目指されたきっかけについて教えてください。

歯科医師を志したのは、父からの影響が大きいです。中学生の頃、将来を考えるにあたり「医師か歯科医師を目指してみてはどうか」とアドバイスを受けました。人の役に立ち、多くの方に喜んでいただける仕事であることに魅力を感じ、歯科医師を目指す決意をしました。

理事長（院長）が卒業後の勤務先を選ばれたポイントを教えてください。また、そこでどんなことを学ばれましたか

まず、卒業後は地元である岡山県に戻ることを決めていました。大学6年生の時、歯科麻酔・全身麻酔の実習がとても面白く、麻酔科の研修ができる地元の施設を探したところ、紹介されたのが倉敷市にある川崎医科大学でした。
川崎医科大学の口腔外科に入局し、麻酔科にもローテーションする機会を得て研修を受けました。そこでの経験は、臨床の基盤を築くうえで非常に大きな学びとなりました。

開業しようと決断した時期　いきさつはどんなことでしょうか。

明確な信念があって「開業しよう」と決めたわけではありませんでした。当時、周りの友人たちが次々に開業していき、その姿を見て「自分もそろそろ開業すべき時期かもしれない」と考えたことがきっかけです。
大学に4年在籍した後、関連病院で2年間研修を受けていましたが、ちょうど後期研修が終わるタイミングで開業を決意し、卒後6年目に開業しました。当時は卒後4〜5年で開業する方が多く、自然な流れとして自分も踏み切りました。

開業前に一番不安だったことは何ですか？どう乗り越えましたか。

一番の不安は、お金のことや銀行とのつき合い方がまったく分からなかった点です。身内に医療関係者や商売をしている人がいなかったため、すべてが手探りでした。また、スタッフ採用の経験もなく、開業してから5年ほどは試行錯誤の連続でした。
それでも、とにかくがむしゃらに努力を重ねることで、一つずつ課題を乗り越えていきました。

開業場所を決めるにあたり、どのようなポイントを重視しましたか。

開業にあたり、「岡山市内で」ということだけは決めていましたが、特別なこだわりはありませんでした。そのため、不動産会社に紹介してもらった複数の物件を見て回り、その中から最適な場所を選びました。
一方、院内の内装については強いこだわりがあり、プライバシーを大切にしたいという思いから、当時としては珍しかった“全室個室”の構造を採用しました。患者さんに安心して治療を受けていただける環境づくりを目指しての決断でした。

開業後、理想と現実のギャップを感じた瞬間はありましたか。

勤務医として大きな組織に所属していた頃は、患者さんもこちらの説明を素直に受け入れてくださり、スタッフも指示通りに動いてくれる環境が整っていました。そのため、特に大きな困難を感じることはありませんでした。
しかし、開業すると「人・物・お金」など、あらゆるものが思い通りにいかず、そのギャップにとても苦労しました。セミナーや勉強会への参加、多くの書籍の読破、そして最終的にはコンサルティングを受けながらアドバイスをいただくなど、試行錯誤を重ねて乗り越えていきました。

大学や研修では得られない「マネジメント力」や「人・物・お金の知識」は、開業して初めて直面し、そこから学ぶことばかりでした。スポーツでもよく言われる「心・技・体」と同じで、技術や知識（技・体）は学ぶ機会がありますが、人間力（心）や経営力は実際に経営者となってから磨かれていくものだと痛感しています。

当院では、勤務医の先生方にもこうした“人間力・経営力”を学んでいただけるよう環境づくりを行っています。最終的には人間力がなければ、スタッフも患者さんもついてきてくれません。現在も院全体でその力を高めるため、日々ブラッシュアップを続けています。

また、倫理法人会にも入会しており、朝礼を通じた人材育成にも力を入れています。朝礼では『致知』や『理念と経営』といった雑誌の輪読会を行い、価値観や考え方を共有する場として活用しています。

【理念・治療スタイル】

経営理念や診療方針を教えて下さい。

当院は「予防」を基本とした診療を大切にしています。小児歯科、成人歯科、訪問歯科とそれぞれに特徴を持たせ、地域の方々が“一生涯、自分の手と口で食べ続けられること”をサポートすることを理念としています。
赤ちゃんからターミナル期の方まで、幅広い年代の患者様をサポートできる歯科医療を提供することが当院のスタイルです。

治療スタイルに影響を与えた特定の経験や出会いがあれば教えてください。

川崎医科大学での研修後、障害者施設である旭川荘で研修した経験が治療観に大きな影響を与えました。障害を持つ方ができる限り普通の生活を送れるよう支えることの重要性を学び、身体が不自由になり自宅介護や施設で生活される方々の現状にも触れました。
現在も障害をお持ちの方々とのつながりは続いており、「口の機能を長く維持してほしい」「通院が困難な方にも通常の歯科診療を届けたい」という想いから訪問診療を充実させています。また摂食嚥下診療にも力を入れ、より専門性の高いサポート体制を整えています。

今後の歯科医療の発展において、理念に基づき医院として特に力を入れたい分野はありますか。

今後は「口腔機能診療」をさらに強化していく方針です。
小児では“食べる・飲める・話せる”といった口腔機能に加え、体幹機能、歩行、睡眠など包括的な発達を視野に入れて診療を行いたいと考えています。成人・高齢期では、将来に向け咀嚼するための筋力を適切に保つサポートを行い、在宅医療が必要になれば嚥下機能の治療やリハビリまで提供できる体制をさらに整えていきたいと考えています。

他の医院との差別化するために工夫している点をお聞かせください。

医療法人社団華城会では、歯科医院4院、内科・小児科1院、デイサービス2施設を運営しており、「医療・歯科医療・介護」をトータルに捉え、地域の“食べる”を支える医療グループとして機能しています。
歯科にとどまらず、多職種・多分野が連携できる体制が、当院ならではの強みとなっています。

開業・運営するうえでの苦労話、ピンチなどはありますか。

もっとも苦労しているのは「人材確保」です。採用・育成・定着という一連のサイクルは今も試行錯誤しながら取り組んでおり、永遠の課題といってもよいほど難しいテーマだと感じています。

どのような増患対策を取られていますか。

当院では、診療内容を正確かつオープンに地域へ発信することを大切にしています。また、スタッフがどれだけ楽しく気持ちよく働いているかが医院の雰囲気をつくると考えており、その様子をSNSで積極的に発信しています。
普段の自分たちの姿を知っていただき、共感して来院してくださる方が増えるよう、当院の魅力を伝えることを心がけています。